人気の小説やアニメにはファンの心を魅了する綿密な仕掛けがある。新潮社のミステリ編集者として、長年新人賞の下読みを担当し、『書きたい人のためのミステリ入門』を書いた新井久幸さんは「ファンを魅了する『本当に美しい伏線』には2つの条件がある」という――。
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作品へのさらなる熱中を生み出す仕掛け

「考察まとめ」「謎・伏線一覧」「回収されない伏線はこれだ」――。3月8日、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:II』が公開されるや、熱心なファンによるまとめ情報が、ネット上を賑わわせた。映画を観たあとでこうしたサイトを巡回し、「答え合わせ」を楽しんだ人も多いはずだ。

「エヴァ」に限らず、こうした考察は、連載最終回を迎えた『進撃の巨人』(諌山創・作)や、人気がうなぎ上りの『呪術廻戦』(芥見下々・作)でも見られる、ファンダム現象と言える。

原作者や編集部のオーソライズではないが、それ故に自由度の高い個性的な解釈や考察がSNSなどによって広く共有され、作品へのさらなる熱中を生み出していく。そのなかでも、特にファンが好むのが「伏線」と、その「回収」だろう。

クイズ番組や「脱出ゲーム」の隆盛を見るまでもなく、「謎解き」が好きな人は多い。伏線を拾い、それらを組み合わせて仮説を立て、上手くいかないと考え直して……というのは、一人でやっても面白いが、みんなでああだこうだと語り合うのが一番楽しい。

それが集合知となって、一気に核心へ迫ってしまうこともある。そんな経験をさせてくれた作品は、読者にとって、特別な存在になるだろう。もちろん、それは作品にとっても幸せなことだ。

そもそも山ほど伏線を張っても、全然気付いてもらえないことだってあるから、伏線に気付いて、その意味を考えてもらえるのは、それだけで本当に有り難いことなのだ。

では、どういう伏線が望ましいのか。

拙著『書きたい人のためのミステリ入門』にも書いたことだが、どんなものが「美しい伏線」なのか、から説明してみたい。