投票日直前に飛び出した国民党元総統の爆弾発言
今回特に抽出すべき事象は、馬英九元総統の「習近平氏を信用すべき」発言だろう。これはドイツの国際放送専門の公共放送局ドイチェ・ヴェレが1月8日に行った同元総統の単独インタビューの中での発言で、10日には動画が公開され、11日には国民党は「その内容は党の総意ではない」と否定し、火消しを余儀なくされた。ちなみに、馬英九氏は翌日の最後の国民党応援集会には、招待されなかった。
馬英九氏がなぜこのような発言をしたのかについての臆測は、あえてここでは控えたい(動画がすぐに公開されるとは思っていなかったのかもしれない)。しかし「習近平氏を信用すべきだ」との発言は、明らかに中国共産党への加担を呼びかけるものに聞こえただろう。「慎重かつ対等な現状維持の平和的対話」を目指す大多数の国民党支持者にとっては、不安を増大させる威力がありすぎた。
前回の2020年台湾総統選挙で民進党陣営の勝利という結果を招いたMVPが、
「8年目のジンクス」を打ち破った民進党
今回、民進党が政権を継続することになった意味は大きい。今まで8年ごとに必ず政権交代がされていた台湾において、初めて「8年目のジンクス」を打ち破ったことになる(台湾では、「8年目の呪い」とまで揶揄されていた)。
今回の総選挙の争点について、日本では「台湾有事」「中国との距離感」「対話か強硬姿勢か」「平和か戦争か」「経済融和か中国依存脱却か」といったテーマだと捉えていたようだ。しかし、本当のテーマはまず何よりも「政権交代」だったのだ。約30年前から始まった故・李登輝元総統の民主改革から始まり、独裁政治を脱して民主主義を勝ち取った台湾は、「独裁」「腐敗」「汚職」「利権」「権力集中」が大嫌いだ。8年目を迎えた与党民進党は、そうしたものに対する台湾国民の批判の矢面に立っていた。