投票日直前に飛び出した国民党元総統の爆弾発言

今回特に抽出すべき事象は、馬英九ばえいきゅう元総統の「習近平氏を信用すべき」発言だろう。これはドイツの国際放送専門の公共放送局ドイチェ・ヴェレが1月8日に行った同元総統の単独インタビューの中での発言で、10日には動画が公開され、11日には国民党は「その内容は党の総意ではない」と否定し、火消しを余儀なくされた。ちなみに、馬英九氏は翌日の最後の国民党応援集会には、招待されなかった。

撮影=藤重太
国民党の侯友宜/趙少康陣営の国際記者会見(2004年1月11日)

馬英九氏がなぜこのような発言をしたのかについての臆測は、あえてここでは控えたい(動画がすぐに公開されるとは思っていなかったのかもしれない)。しかし「習近平氏を信用すべきだ」との発言は、明らかに中国共産党への加担を呼びかけるものに聞こえただろう。「慎重かつ対等な現状維持の平和的対話」を目指す大多数の国民党支持者にとっては、不安を増大させる威力がありすぎた。

前回の2020年台湾総統選挙で民進党陣営の勝利という結果を招いたMVPが、台湾統一を声高に宣言しつつ香港に圧政を行った習近平だとしたら、今回の選挙の趨勢を決したMVPは、11月に国民党と民衆党の総統候補一本化を強引に進めようとして大失敗した上に、この「習近平を信用すべきだ」発言をした馬英九元総統だといえるだろう。

「8年目のジンクス」を打ち破った民進党

今回、民進党が政権を継続することになった意味は大きい。今まで8年ごとに必ず政権交代がされていた台湾において、初めて「8年目のジンクス」を打ち破ったことになる(台湾では、「8年目の呪い」とまで揶揄やゆされていた)。

今回の総選挙の争点について、日本では「台湾有事」「中国との距離感」「対話か強硬姿勢か」「平和か戦争か」「経済融和か中国依存脱却か」といったテーマだと捉えていたようだ。しかし、本当のテーマはまず何よりも「政権交代」だったのだ。約30年前から始まった故・李登輝元総統の民主改革から始まり、独裁政治を脱して民主主義を勝ち取った台湾は、「独裁」「腐敗」「汚職」「利権」「権力集中」が大嫌いだ。8年目を迎えた与党民進党は、そうしたものに対する台湾国民の批判の矢面に立っていた。