台湾には「親日家」が多いと言われるが、とくに安倍晋三元首相の人気が高い。東京女子大学の家永真幸教授は「中国との関係から台湾を国家として扱えない中、安倍氏が大使館に相当する組織名に『台湾』を入れるなど、国際社会の目につく場所で台湾の存在を認めたからではないか」という――。
※本稿は、家永真幸『台湾のアイデンティティ 「中国」との相克の戦後史』(文春新書)の一部を再編集したものです。
台湾・高雄に等身大の銅像を建立
2022年7月8日、日本の安倍晋三元首相が選挙応援演説中に銃撃され死亡するという大事件が発生した。これに対し、台湾の蔡英文総統はただちにSNSで弔意を示すとともに、同月11日には頼清徳副総統を弔問のため日本に派遣した。台湾社会では、日本国内で国葬の是非をめぐり議論が沸騰したのと対照的に、総じて強い哀悼の意が示された。
安倍の台湾での人気はきわめて高い。そのことは、蔡が政府各機関および公立学校に同月11日に半旗を掲げるよう指示したことからもうかがえる。国交のない日本の元首相を特別扱いすることについては、本来は法的に議論の余地があった。それにもかかわらず蔡があえてこの措置をとったのは、それが民意に沿っているとの判断があったためと考えられる。
安倍の死後、台湾では有志によりその等身大の銅像が鋳造された。この像は高雄市の紅毛港保安堂に設置され、同年9月24日に除幕式が行われた。
銅像の傍らには、安倍の揮毫による「台湾加油〔がんばれ台湾〕」の文字を刻んだ石碑も置かれた。この文字はもともと、18年2月に台湾東部の花蓮で発生した大地震へのお見舞いのメッセージとして安倍が色紙に直筆し、台湾メディアで広く取り上げられたものであった。