プライベートタイムにまで「タイパ」を持ち込まない

「ヒュッゲ」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれない。「ヒュッゲ」とは、デンマーク語で「心地良さ」を意味する。デンマーク人が大切にしているのは「ヒュッゲなひととき」。つまり、心地良い時間である。

夏、親しい友人を自宅に招いて、太陽の光を浴びながら、ゆったりとワインを飲んで語り合う時間。家族と一緒に湖に行って、美しい景色を眺めながら泳ぐ時間。森に散歩に行く時間。芝生に寝転がって読書をする時間。

みんなで焚き火を囲んで、木の枝にくるくると巻いたパンの生地を焼く時間。冬、暖炉やロウソクの火を眺め、手作りのケーキを食べながら、おしゃべりを楽しむ時間……。

身体も心もリラックスし、大切な人と一緒にゆったりとしたひとときを過ごす。そんな時間が日常の宝物だ。

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ここで何を伝えたいかというと、本当に大切なプライベートタイムにまで「タイパ」を持ち込んではいけないということだ。大切なひとときまで時間を意識していたら、せっかくの贅沢なひとときが台無しになってしまう。

そうではなくて、本当に大切なひとときを存分に満喫するために、徹底的に仕事の「タイパ」を考えるのだ。

自分が心から喜びを感じられる時間は、それ自体に価値がある。だから、喜びを感じられる時間は削ってはいけない。喜びを感じられる時間をたっぷりと確保するために、そのほかの時間を「タイパ」を意識して効率的に使うのだ。

大事なことがもうひとつ。会社の同僚も部下も取引先の人もプライベートライフを大切にできるように、お互いの「タイパ」を意識すること。

自分の大切なプライベートライフを守る。他人の大切なプライベートライフを守る。

そのための「タイパ」なのだ。

「付き合い」はしない、させない

そんなデンマークの人びとは「仕事の付き合い」はしない。

フリータイムを大切にするデンマーク人は、同僚や部下を飲みに誘ったりしない。良かれと思って誘ったところで、あっさり断られるのがオチだろう。

もちろん、業界によって例外はある。クリエイターやメディア業界で働く人は、仕事とフリータイムの区別があまりない。趣味も、人間関係も、仕事とプライベートが混ざり合っている。こういった人たちは、勤務時間外でも交流を楽しんでいる。

針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)

ただ、彼らは純粋に交流を楽しんでいるだけであって「仕事の付き合いだから仕方なく」という理由で参加しているわけではない。

仕事は午後4時に終了で、その後はフリータイム。この認識が一般的だからこそ、午後4時以降は、きっかりとプライベートモードに切り替えられる。

お互いのプライベートを大切にするからこそ、仕事の付き合いにダラダラと時間を費やさない。

誘われないし、誘わない。ドライといえばドライに聞こえるかもしれないが、デンマーク人は基本的に「仕事よりも大切なものがある」と思っている。

自分にも上司にも同僚にも部下にも、仕事とは別の、大切なプライベートタイムがある。その認識を前提として、お互いの暮らしを守るためのマナーをわきまえている。