「日常生活には、ゆとりがある。私はいい日々を送ってる」
3人の子どもがいて責任ある仕事もしていて大変、という回答を想定していたので、ヘリーネの答えは拍子抜けだった。ヘリーネは続ける。
「今こうして犬の散歩をしながらあなたと話しているのも、とても贅沢なひととき。
私はきっと優先順位をつけるのが上手いの。第一優先は家族。第二優先は仕事。三番目が娯楽や、自分がしたいこと。この優先順位はいつも変わらない。
私は大好きな仕事をしているから、家族と並んで、仕事の優先順位もすごく高い。職場でいいチームに恵まれて仕事しているから、社交的な欲求はそこで満たされているのだと思う。
だから、友達に会ったりする時間はほとんどない。SNSも一切使わない。SNSを見ると、ものすごくエネルギーを消耗するから。ときどきそんな自分に罪悪感を抱くこともあるけど、でも、やっぱりそこに使う時間はないわ」
なんてカッコいいのだろう。多くの人が人付き合いやSNSに振り回されている今、彼女はSNSを見る時間はないときっぱりと言う。世間に流されない、自分の価値観を持っている。
家族を大切にして3人の子育てをし、大好きなアートの仕事でスタッフに恵まれ、組織のトップとして責任のある仕事に取り組んでいる。そして、こう言うのだ。
「日常生活には、ゆとりがある。私はいい日々を送ってる」
彼女の言葉に、あなたは何を感じるだろうか。
1時間のインタビューが終わった頃、ヘリーネは家の近くに戻ってきたようだ。スマホのビデオカメラを再びつけてサングラスを外し、「いいひとときだった。ありがとう」と、爽やかな笑顔でお別れの挨拶をしてくれた。
祝日の午前中。
彼女のおかげで、私もとても清々しい気持ちで1日を迎えた。
時間を取り戻せ!
「テイク・バック・タイム(TAKE BACK TIME)」という名前の会社を経営しているのは、ペニーレ・ガーデ・アビルゴーだ。デンマークで週休3日を提唱し、企業やコミューン(市)に対して週休3日制の導入をサポートしている。
(もともと午後4時に帰宅する国民なのに、さらに休む必要があるのだろうか?)
興味を持った私は、ペニーレに連絡した。
SNSを通じて連絡すると、即OKしてくれたものの、「今後はSNSではなくて、メールで連絡して」とお願いされた。
この言葉に、私はペニーレ自身のSNSとの付き合い方を垣間見た気がした。
ペニーレの活動は、社名「テイク・バック・タイム(時間を取り戻せ)」そのままだ。
ペニーレに会社を立ち上げた理由を尋ねてみると、こんな回答が返ってきた。
「私たちの時間は奪われてる。色んなことに時間を奪われていながら、そのことに無自覚でいる。あっちからも、こっちからも、色んなことに意識が向けられて、振り回されてる。だから、私たちは時間を取り戻さなきゃいけない。
時間を意識的に使わないと、あっという間に年をとって死んでいくことになる。それって悲しいことじゃない? だから、時間の使い方を意識するのは、とても大事なこと」
どうだろう。今、この本を手にしているあなたは、時間を意識して使っているだろうか。
次項では、「タイパ」の話をする。
自分の時間も、相手の時間も大切にするのが、真の「タイパ(タイムパフォーマンス)」だ。