生産性を追求するデンマーク人の時間術は何か。デンマーク文化研究家の針貝有佳さんは「デンマークでは、日本の組織の意思決定プロセスにいるはずの何人もの中間管理職の承認を飛ばせる。また、同僚や部下の『ダブルチェック』や『メールcc』を安易に入れない。複数の人が同じ作業をするのは、社員と組織の時間コストが高くなる」という――。

※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

電子メールを使用するビジネスマンの手
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生産性の源泉は「仕事への喜び」

香港で組織のトップとして働いていた経験があるスティーンは、香港でカルチャーショックを受けた。

「僕が香港で働き始めたとき、やることがいっぱいあって20時頃まで働いていたんだ。そうしたら、部下が誰も帰らなくて……なんで帰らないのだろう? って不思議に思ってたんだ。

そうしたら、後になってから気がついたんだけど、部下たちはみんな、僕より早く帰ってはいけないと思ってたみたいなんだ。そのことに気がついたときはショックだったよ」

部下が上司を気遣って、あるいは上司の視線を気にして帰宅時間を調整するという慣習はデンマークにはない。スティーンのなかで、そのカルチャーは衝撃だった。

その後、スティーンは部下に18時には帰るように「指示」を出した。

理由は、デンマークの社員のように、香港の社員にも喜びを感じて働いてほしかったからだ。

スティーンの考えはこうだ。

生産性が高く、成果を出せるのは、心から仕事に喜びを感じている社員である。心から仕事に喜びを感じるためには、プライベートを犠牲にしてはいけない。プライベートを犠牲にしてしまったら、いつか疲弊して、仕事でも成果を出せなくなってしまう。

しかし、スティーンからの異例な「指示」に、香港の社員は戸惑ってしまった。

最初は、スティーンが部下にどんなに早く帰るように「指示」しても、部下はなかなか帰ってくれなかった。香港の社員には、上司よりも早く帰宅するという発想がなかった。

どうしても上司よりも早く帰宅することに抵抗がある。どうしても上司よりも早く帰宅する気になれないのだ。