プライベートを犠牲にしたツケがくる
たとえ上司の「指示」であっても、上司よりも早く帰ったら給料を減らされるのではないか、解雇されるのではないか、そんな不安が襲ってくる。
スティーンは部下たちの不安を取り除くために、部下の説得を続けた。スティーンからすれば、そんな心配は無用だった。
「早く帰宅したら評価が落ちるのではないか、なんて、そんな心配は要らない。僕が一番心配していたのは、部下が長時間労働で疲れてしまうことだった。部下にはプライベートも満喫してほしい。プライベートも充実してる方が、仕事の生産性も上がるから」
スティーンは、部下がプライベートも充実させて、心から仕事に喜びを感じてくれることが一番嬉しいと断言する。
仕事のためにプライベートライフが犠牲になれば、メンタルが疲弊して、そのツケが必ず仕事にはね返ってくる。
逆に、プライベートライフをしっかり楽しみながら、情熱的に仕事に取り組めれば、仕事でも成果を出せる。働くことに喜びを感じられることは、生産性のためにもとても重要なことなのだ。
中間管理職の「承認」を飛ばすことも
そもそも、日本の会社は、組織の意思決定プロセスに関わるメンバーの数が多いのかもしれない。
映画監督キャスパーは、日本が大好きで、日本を舞台にドキュメンタリー映画を撮ってきた。キャスパーは日本とのやりとりについて、こう語る。
「ひとつのことを進めるのに、色んな人の許可が必要で、ものすごいプロセスを踏まなきゃいけない。最終決定までに何人もの許可が必要なこともある。だから、なかなか物事が前に進まない。日本人の労働時間は長いと言うけれど、いちいちこんなに細かい手続きを踏んでいたら、それは労働時間が長くなるに決まってる、と思ったよ」
このように、日本とのやりとりを煩雑に感じるのは、キャスパーだけではない。
デンマーク人と話していて、日本企業と仕事をする大変さが話題に上ることは多々ある。とくに、確認作業の多さに辟易する人が多いようだ。
シンプルに考えてみよう。
社員のワークライフバランスを重視する海外の企業が、手続きが煩雑でコミュニケーションコストが高い日本企業と一緒に仕事をしたいと思うだろうか。
デンマークの組織について、キャスパーはこう説明する。
「デンマークでは、日本の組織の意思決定プロセスにいるはずの何人もの中間管理職の承認を飛ばせる。デンマークの組織は基本、少人数かつプラグマティックで、意思決定のスピードが速い」
キャスパーが共同経営する映画会社も少人数だ。国内外で数々の賞を受賞するクオリティの高いドキュメンタリー映画を制作しているが、常駐スタッフはほんの数人だ。
あとは、パートナーやフリーランスを含む約10人のコアメンバーでさまざまなプロジェクトを進めている。それぞれが自分の役割を担いながら、みんなでサポートし合う。会議やプレゼンはほとんど開かない。
私は数少ない会議のために、この映画会社を訪問することがあるが、やはり会議は短時間で終わる(いつもコーヒーやお茶を淹れてくれるのが嬉しい)。会議で何かを決めるというよりは、ざっくりとした現状把握と、これからすべきことの確認という感じだ。出席者は最大で4人くらいだろうか。意思決定のスピードは驚くほど速い。
あるとき、会議に出席していたスタッフが、途中から自分にはあまり関係のない内容だと思ったようで「じゃ、私はここで」と、サクッと退席したが、誰も気に留めていなかった。
(あ、これでいいのか)
と、さりげないシーンに日本との相違を感じた。