当たり前のことを真面目に詰めていたら成立しない

考えてみれば、経営者にズルさのようなものが必要なのは、当然のことなのだ。

リーダーにだけ許された特権というのがある。たとえばリーダー以外の人は、勝手に前提や建前を変えたり、ルールを変更しようとしたら罰せられてしまうけれど、企業トップだけはこれができるのだ。

ということは、経営者は下の者に向かっては「当たり前のことをきちんとやりなさい」といったりするものの、経営者自身は、当たり前のことを真面目に詰めていたら成り立たない商売だということにもなる。

リーダーの特権として許された手段の選択肢が社内の誰よりも多いわけだから、ときにはこれをフルに行使してでも、経営者でなければできない発想で会社を経営していく。それをいまズルイ経営といったわけだが、実際こういうのは、ある意味でどうも経営者の義務でさえあるのではないか?

下で真面目に仕えていくタイプはこれができなくて、彼がなかなか経営者になれない理由となっていることが多い。

このあたりのことを図表1、2にまとめてみた。図1のほうに「経営者になれる条件」、図2には「管理職になれる条件」を書き込んである。

それぞれの使命または義務が、中央の楕円だえんの中にある「業績の向上」と「責任を持って業務を遂行する」である。両者の決定的な違いは、主にここからきているといっていい。

仕事に必要なのは「マニュアル」ではなく「ズルさ」

どちらかというと私自身も、当たり前のことを真面目に詰めるというのに陥りやすいところがあるからわかるのだが、ふつうの会社のサラリーマンを長くやっていると、どうしても経営者に必要なズルさみたいなものが身につかないままできてしまうものだ。

彼がそこで鍛えられるのは、もっぱら真面目に詰めていく仕事ぶりのほうである。

逆に、経営者の中でもオーナー社長や長期政権の名物社長には、したたかな雰囲気を強くかもし出す人が多いのだが、もちろんこれは偶然ではない。

あらゆる会社が例外なく山のように問題を抱えている。会社とはそういうものだ。

したがって経営というのは、どんなに大きな会社でも、いくらカネがあってヒトに恵まれていたとしても、経営者のズルさなしでは成り立たない。

古谷昇『コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法』(PHP研究所)

経営者たちのこの目のつけどころ、したたかさ、ズルさを早いうちから身につけられたら、経営者にもなれるし経営コンサルタントもできる。たぶん何のビジネスをやっても成功できるはずである。

何かの手法に従ってやっていれば答えが出るといった仕事ぶりでは、最後は必ずにっちもさっちもいかなくなるのが明らかだ。

経営者に独特な目のつけどころというのは一朝一夕に身につくものではないにせよ、仕事に必要なのはマニュアルではなくズルさだと心得て、ここはせめて、少しでも彼らの視点を学び取りたいという気持ちが大切である。

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