くふうカンパニー代表の穐田誉輝さんは、食べログやクックパッドを一大サービスに育てたことで知られる。その原点のひとつは、価格比較サイト「カカクコム」の起ち上げだ。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが書く――。

※本稿は、野地秩嘉『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー 食べログ、クックパッドを育てた男』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

店頭に並べられたパソコン
写真=iStock.com/Aramyan
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暑くて寒くて、段ボール処理の音にまみれた部屋

穐田が社外取締役としてカカクコムに入社したのは、創業者の槙野光昭が価格入力システムを導入した後のことだった。

穐田が初めて社外取締役として浅草橋にあったカカクコムに出かけた日の朝のことだ。小さなビルにあった事務所に着いたら、隣のビルの入り口には段ボールを積んだリアカーを引くランニングシャツ姿の人たちが並んでいた。「何事か」と思ったら、隣のビルは段ボールの中間処理会社だった。

段ボールを持っていくと、買い取ってくれたのである。のちにカカクコムは水道橋のビルへ移る。だが、それまでの間、穐田が出勤する時はリアカーを引いた人たちと一緒だったのである。

そしてカカクコムの事務所は暑かった。事務所にはデスクと一緒に大型のサーバーがあり、絶えず熱を発していた。その当時、レンタルサーバーというものはなく、自社で買わなくてはならなかった。小さな事務所だったのでサーバーはデスクのすぐ近くに設置してあった。

そのため、事務所のなかはいつも暑かった。エアコンを効かせると、風の吹き出し口近くはとても寒くなった。暑さと寒さと段ボール処理の音のなかで社員たちは働いた。

カカクコムで働くことになり、直面したのは強大なライバルとの戦いだった。

40億円の資金力vs.20代のアキバオタクたち

価格比較サイトの有力企業、アメリカの「ディールタイム」が2000年2月に日本に進出してきたのである。ディールタイムにはジャフコ、三井物産、オムロン、クレディセゾンなどが出資し、たちまち40億円を調達してしまった。

また、ディールタイムは日本進出に際して多額の資金を調達しただけでなく、一橋大学を出た東京銀行(現・三菱UFJ銀行)出身の優秀な人間を社長に据えた。そして、資金力にものをいわせて宣伝広告にも金を使った。

ディールタイムは豊富な資金力と優秀な人材を表に立てて、カカクコムを圧倒する戦略を取ったのである。カカクコムが音を上げて「うちを買収してくれませんか」と言ってくるのを待っていたのだろう。

強大なライバルに対し、カカクコムの資金はアイシーピーが出した1億円しかなかった。人材といえば槙野、穐田のほかはビジネス経験のない20代の人間だけだ。ほぼ全員がアキバオタクでゲームが好きでパソコンには詳しいが、コミュニケーションは苦手……。前の晩、遅くまでゲームをやっていて、次の日は休んでしまうこともあった。