「自己中」なのではなく勇気を持って叫んでいる

一般に「わがまま」というと、いわゆる「自己中」などといった、ネガティブなイメージが強いかもしれません。しかし、ビジネスシーンではそういった「わがまま」な部分がないと、ほかと差別化することができません。そのことを理解している経営者が「わがまま」を上手に自社アピールに生かしている、そんな印象を持っています。

富田英太
富田英太 Hidehiro Tomita アチーブメントストラテジー代表。店舗売り上げ改善・黒字化経営のスペシャリストとして活動。著書に『社長はぜんぶ好き嫌いで決めなさい』(あさ出版)など。

事実、私がコンサルタントとしてお付き合いしてきた経営者の中でも、大きな成果を出す人は、大抵「わがままな人」でした。

ただし、生来の「わがまま」と、ビジネス上で「わがままであること」は異なります。私のクライアントの「わがままビジネスパーソン」も、話してみると穏やかで人当たりのいい方ばかり。世間でイメージされるような唯我独尊・傍若無人タイプはいません。

では、どんなところが「わがまま」なのか。それは周囲に迎合せず、闇雲に時流に乗らず、自分の理想を貫くところ。「その事業は絶対失敗する」「そんな製品は誰も買わない」など、周囲が投げかける一般論や助言に対して、彼らはまさに馬耳東風。突飛なアイデアや言動は、時に「常識外れ」「頑固」などと評されることもあります。彼らは性格がわがままなのではなく、手段や戦略として「わがままに振る舞っている」のです。

高度経済成長期とは違い、現代社会はあらゆるモノやサービスがあふれています。その中で埋もれないためには、「突出した何か」が必要です。特にマス媒体に広告を持てない中小企業やベンチャー企業にとっては、顧客やファンの共感こそが命綱。「この会社が語るストーリーに共感するから商品を買う」「創業者の心意気に共感するから出資する」など、経営者の姿勢自体が広告塔になるからです。

SNS界隈では「ファン」と「アンチ」の数は比例します。「人に嫌われたくない」「敵をつくりたくない」と思うのなら、何もしなければいい。ただし、注目を集めることも味方をつくることもできないでしょう。「わがまま」な経営者は、勇気をもって「自分の思いを叫ぶ」ことで、多少の罵声や批判の声を受けながらも、共感を呼び、ファンを惹きつけているのです。

一例を挙げましょう。京都にMIYACOという会社があるのですが、中馬一登社長が掲げる哲学は、「ええやつの我がままは世界を救う(気がする)」というもの。その言葉通り、多種多様な志を持つ若者たちが中馬社長のもとに集い、食品・健康事業やアート・デザイン事業、教育・能力開発事業や地方創生事業など幅広く展開しています。

中馬社長は、「自分のしたいことをやっているうちに、多くのわがまま者が集まり、他人のわがままを支援することが自身のわがままを貫くために必要ということに気づいた」と語っています。「わがまま」な経営者は、他者のわがままをも懐深く受け止められる度量がなくてはできないのです。

こうしたリーダーの姿、企業の形は、日本企業の未来の可能性を示しているのではないでしょうか。従来のようなトップダウン型、ピラミッド型の会社ではなく、行動力のある同志が集い、それぞれの信念をビジネスの形に具現化していく、「自律分散型」の組織です。現代のような変化のスピードが速い社会では、こうした組織が成果を出していくと私は考えています。