腹を括りながら、常に抜け道を探せるか
これとこれはそもそも両立しないがともに大切だとか、トレードオフが必要だと二者択一を迫られたりしたときなどに、これをどううまくさばくかで経営者の手腕が問われることになる。そんなとき、どうやら経営者というのは、
②抜け道を探す
このどちらか、もしくは両方を考えるものらしい。
①のほうはわかりやすい。これは要するに、下の者に「どちらかに決めてくれ」といわれて、エイヤッと決めることである。
最終的に経営者のところまで上がってくることは、わからないこと、下では処理できなかったことばかりだ。ロジックで決まることなら何も経営者に決断をゆだねる必要はなく、承認をもらえばそれですむ。
わからないから決めてくれといわれて、経営者もわからないけれど、とにかく右か左か決めないといけない。決めなきゃ会社が動かないので、結果として決断を誤ったときの最悪のシナリオも覚悟したうえで、腹をくくって「右だ」「左だ」と決断を下す。
こちらは、わりとよく経営書に出てくる話だ。
しかし②のほうは、経営者に独特の思考パターンなのだが、なぜかあまり指摘されることがない。
私が見たところ、経営者は腹をくくるのと同時並行して、常に抜け道を探しているようなところがある。
名経営者とダメ経営者を分ける意外な視点
たとえば本書で紹介している製薬会社の例で、こちらが「中国進出には可能性がありそうですが、そうなったらA薬の開発はできませんから諦めるしかないですね」と説明しても、社長は決してそれを真に受けない。
A薬もどこか他社と共同開発したらコストが半分になって、中国進出と同時にできるんじゃないか、などと考えるのが経営者なのである。
私は、ここで下の者やコンサルタントのいうことを真に受けてしまって、すぐにA薬と中国進出の二者択一に行き着いてしまうのは、実はほんとうの経営者ではないという気がしている。
経営者は転んでもタダでは起きない。なんとか一石二鳥を狙えないかと、いつもあれこれ手立てを考えている。彼には一筋縄ではいかないしたたかさがあって、いってしまえばズルイ考え方ができるのである。
経営の視点にはこういう要素が非常に大事なのだ。