長女の信頼を失った小学校時代
不登校から2カ月ほど経った7月頃、担任教師から連絡があった。「不登校の相談に乗ってくれる市の機関がありますよ。お母さんだけでも大丈夫ですので、良かったら行ってみませんか?」と言う。吉野さんは、長女の意思を確認せず、「長女も連れて行きます!」と答えた。
2人で市役所に行くと、吉野さんと長女は別々の部屋に通された。吉野さんは椅子に座ると、これまでの経緯を相談員に話した。すると相談員は、「では、娘さんが生まれてから今までのことを教えていただけますか? 覚えていることだけでいいので」と言った。
「私は内心、『そんなこと関係なくない?』と思いました。私が知りたいのは、長女がいじめられた理由と、学校へ戻らせる方法。疑問に思いながらも、一生懸命過去を振り返りました」
小学校1年生のとき、長女は帰宅するなり、「疲れたから、おやつが食べたい」と言った。吉野さんは、「宿題が終わってからね」と答えた。すると長女はいつまでも宿題をやらず、ぐずぐずしている。
イライラした吉野さんは、「もういいよ! おやつ食べたらちゃんとやるんだよ!」と言いながら、おやつを渡す。すると長女はおやつを食べて、そのまま寝てしまった。吉野さんは、「なんでこんなことさえできないんだろう」と呆れた。
小学校4年生のときには、長女はクラスの女子に、「なんでそんな変な服着てるの?」と笑われた。長女は帰宅すると、「この服って変なの?」とたずねてきた。カチンと来た吉野さんは、「何言ってるの! 可愛いに決まってるでしょ! そんな子が言うことなんて気にするな!」と怒った。長女は下を向いて小さくうなずいた。
しかしその子の嫌がらせは、日に日にエスカレートして行く。それを長女から聞かされる度、吉野さんは、「やられたらやりかえせ!」「そんなこと気にするな!」と叱咤激励して学校へ送り出した。
6年生になっても状況は変わらず、それどころか、嫌がらせをする子が次第に増えていく。数カ月が過ぎたとき、担任教師から電話があった。
「長女さんがクラスに馴染んでいません。長女さんに原因があるのではないかと長女さんに伝えたところ、『自分に悪いところがあるなら謝りたい。みんなに謝って、みんなと仲良くなりたい』と言っています」
という内容だった。吉野さんは違和感を感じながらも、「そうすることで丸くおさまるなら、お願いします」と言い、長女には、「悪いところがあるなら直さなきゃね」と伝えた。
「私は、『一度休んだらクセになる』『楽を覚えてはいけない』と思い込んでいました。だから、『長女は私に逆らわない』『他人にも言いたいことも言えない』という長女の性格を知りながら、何があっても学校を休ませることをしませんでした。今思えば、この担任教師1人が、クラスを上手くまとめることに必死になり、自己満足に浸っていたように思います。そして母親である私も、長女の話をろくに聞かず、担任に賛同してしまいました。私はこのとき、長女からの信頼を完全に失ったのだと思っています」