アメリカでラーメンと餃子を頼んだら5400円だった

【佐藤】いつぞやニューヨークでTBSの記者の書いた記事がサイトに載っていて、日本のチェーン店のラーメンが2800円とか。いつの間にか、こういう状況になっているわけです。

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【池上】2022年10月にアメリカに取材に行った際、ラーメンと餃子を頼んだら、チップ込みで5400円でした。

あるテレビ番組のディレクターが話していたのですが、担当していたAD(アシスタント・ディレクター)が、もうこんな低賃金ではやっていられないと言って、アメリカに出稼ぎに行ったそうです。アメリカでは、最低賃金が日本円にすると5000円ぐらいになるので、しばらくあちらで稼いで戻ってきます、と。円安という為替要因も大きいのだけれど、どこの国の話なのかと思ってしまいますよね。

【佐藤】いつの頃からか、気づくと日本のテレビドラマから、海外のシーンが消えました。

【池上】新型コロナの影響もあったのですが、コストがかかり過ぎて、なかなか海外にロケチームを出せないのです。悲しいかな、日本が急速に「弱く」なった話を始めると、枚挙にいとまがありません。

猫が象徴しているのは「日本の姿」

【佐藤】前置きが長くなりましたが、この物語でまず注目すべきは、鼠が和尚さんに直談判に行ったことを知った猫が、和尚に自らの考えを述べる部分です。前後を略しますが、猫はこんなことを言います。

「猫はもと天竺の虎の子孫でございますが、日本は、小さなやさしい国柄ですから、この国に住みつくといっしょに、このとおり小さなやさしい獣になったのでございます。」

(「猫の草紙」楠山正雄)

【佐藤】和尚さんを説得するためとはいえ、ずいぶん自己抑制がきいていると思いませんか?

【池上】そうですね。冷静に自己分析しています(笑)。

【佐藤】仏典を広めるために天竺からやってきた虎も、日本の国のサイズに合わせて猫になった。猫は日本の姿、立場を象徴しているわけです。

それを踏まえて、「停戦」を受け入れた猫と鼠たちに対して最後に和尚の述べる言葉を、我々は虚心坦懐たんかいに聞くべきだと思うのです。

「さあ、それでやっと安心した。ねずみは猫にはかなわないし、猫はやはり犬にはかなわない。上には上の強いものがあって、ここでどちらが勝ったところで、それだけでもう世の中に何もこわいものがなくなるわけではないし、世の中が自由になるものでもない。まあ、お互いに自分の生まれついた身分に満足して、獣は獣同士、鳥は鳥同士、人間は人間同士、仲よく暮らすほどいいことはないのだ。そのどうりが分かったら、さあ、みんなおとなしくお帰り、お帰り。」

(同前)