障害の種類によって適材適所を振り分け

冷凍カキフライ、殻付き冷凍カキグラタンなどの製造ラインは30ほどの細かい工程に分けて、その一つひとつができるだけ単純な作業でできるように工夫している。そして、一人ひとりの正育者にそれらの作業を割り振り、毎日同じ作業を繰り返してもらう。そうすることで、数年経つと確実に仕事をこなしてくれるようになる。

「でも、障害によって適材適所があります。精神障害の方は、メンタルが不安定で突発的に仕事を休んでしまうことがあります。そこで、休んでも影響が少ないカキ殻の洗浄作業についてもらっています。一方で、冷凍食品の製造ラインに向いているのは、知的障害の人たちです。一度覚えたことは決して忘れず、よほどのことがない限り休みません。ただし、冷凍カキフライであると、原料カキの選別だったり、パン粉を付ける前にカキを一列に整列させる作業だったり、負荷が比較的小さい作業についてもらっています」と上坂社長は話す。

撮影=熊谷武二
取材当日に製造が行われていた殻付きホタテグラタンのライン

一人ひとりが秘めた潜在能力を職場で活かす

そう語る上坂社長が目を瞠るのが、正育者たちが持っている個々の潜在能力だ。正育者の一人に、打楽器のマリンバの県内コンクールで上位入賞の常連者がいる。手先の器用さや天性のリズム感を活かしてもらうため、殻にカキを乗せていく作業に携わってもらっているが、そのスピードと正確さは誰にも真似ができない。また、記憶力が抜群によくて、珠算で段位の腕前を持つ正育者には、最終工程の袋詰めや箱詰めの作業についてもらい、出来上がった製品の個数管理にも目を光らせてもらっている。「職場以外での付き合いで、彼らの潜在能力に気づくことが多いのです」と上坂社長は言う。

ところで気になるのが、正育者の処遇だ。給与は毎年改訂される「最低賃金」がベースになり、その上積み分が給与のアップに直結する。「利益が出た場合、その一部を賞与の形で正育者の人たちにも配分しています。また、経験を積んで後輩の指導もできるようになると、数千円程度の手当も毎月付けるようにしています」と上坂社長は話す。そして何と驚くことに、福重さんと同じ勤続30年以上の超ベテラン組のなかには、能力が高くて製造ラインの責任者という要職を務めている人もいるのだ。

撮影=熊谷武二
障害を持つ従業員であっても手際は健常者の従業員と変わらない