雇用した障害者を「正育者」と呼ぶワケ

87年、八木ノースイは初めて1人の知的障害者を従業員として迎え入れた。当初、「こんな人に仕事をまかせられるのか」と社内外で反対の声があがった。しかし、道麿さんが手取り足取り教えると、一歩ずつ前進していく。そして数年経つと、任された仕事を確実に実行できるようになり、社内における必要な人間として、従業員の間で認知されるようになっていった。

「この世に障がい者で生まれたいと思っている人はどこにも存在せず、障害を持ったとしても誇りを抱きながら生きていきたいと願っている。そうした障がい者の思いを健常者は正しく理解したうえで、障がい者を正しく育てていきながら、自らの人間性も育んでいくべきではないか」――。そんな思いを募らせた道麿さんは、障害を持つ従業員のことを「正育者」と呼ぶようになり、正育者を積極的に採用し始めた。

撮影=熊谷武二
障がい者と健常者が一緒に働く製造現場

殻付き冷凍カキグラタンの成功で経営は“安定軌道”に

先の福重さんも正育者の1人で、2期目の正育者になる。それだけに長年にわたる会社の移り変わりを目の当たりにしてきた。「97年から殻付き冷凍カキグラタンの製造が始まったでしょう。八木ノースイからカン喜に会社の名前が変わったのは、確か2003年だったっけ」と話し、あたかも最近の出来事のように覚えている。

身を取り除いた後のカキ殻は、廃棄物として大量に捨てられてきた。それらを買ってきて洗浄し、そのうえにボイルしたカキを乗せ、工場内で作ったグラタンソースをトッピングしたうえで、トンネルフリーザーを通しながら冷凍加工を行っていく。一つひとつのカキ殻の形状は微妙に異なり、100%オートメンション化したラインに乗せることが難しい。そのため大手の食品メーカーは手を出したがらず、利幅の取れるオリジナルの主力製品となったのだ。

その殻付き冷凍カキグラタンの成功によって、八木ノースイの経営は“安定軌道”に乗るようなる。そうした最中の99年、上坂社長は勤めていた神戸製鋼所を辞めて、同社に入社した。そしてしばらくした後、障がい者の雇用をより積極的に推し進めていくために、カン喜として新たな船出を行ったのだ。社名は「働く者すべてが、生きる喜び、歓喜に満ちた会社でありたい」との道麿さんの思いを表したものである。

写真=カン喜提供
主力商品である殻付き冷凍グラタン