退職所得控除は「一般庶民の退職金に課税しないため」
退職所得控除の金額は1972年から1976年にかけて、およそ3倍に引き上げられた。
たとえば勤続30年の場合の退職所得控除額は、1972年の350万円に対して、1976年には1000万円となっている。
大蔵省が編集している『図説日本の財政』の1975年度版が「このような累次の改正により、退職者の大部分が、その退職金についてほとんど課税されないことになるものと考えられる」と解説していることからも、退職所得控除が、一般庶民の退職金に課税しないために設けられていることは明らかだろう。
「退職金を分離課税にしたほうが有利な人」がいる
しかし、だとしたらなぜ退職金の分離課税と所得を2分の1にする「2分の1軽課」の制度があるのだろうか。そんなものはなくても、庶民の退職金は原則無税なのだ。
退職金が分離課税となった経緯は必ずしも明確ではない。
1940年の税制改正で、所得税が、①不動産所得、②配当利子所得、③事業所得、④勤労所得、⑤山林所得、⑥退職所得という6種類の所得ごとに課税されるようになったときに、「退職所得」という区分が登場する。
ただし、このとき退職所得の税率は勤労所得よりも高い累進課税だった。
勤労所得の税率は一律6%、これに対して退職金の税率は2万円以下の部分については、勤労所得と同じ6%だったが、税率は累進で上がっていき、50万円を超える部分には40%も課税されていたのだ。
ところが1947年の税制改正で、この所得の種類別課税は廃止され、総合課税に一本化された。だが、なぜか退職所得だけは分離課税のまま生き残ってしまったのだ。
いくつかの税制に関する文献をみても、なぜそんなことになったかは記述されていない。
おそらく、どさくさに紛れて、分離課税にしたほうが有利になる人たちが、そっと分離課税を残してきたのではないだろうか。