なぜ親世代や上司は働く女性の気持ちがわからないのか

ここで昭和型社会構造とその崩壊を振り返るために、主に若年層の女性に向けて書いた拙著『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)の一節を引用(一部修正あり)し紹介します。

<引用>

あなたのご両親や親類、学校の先生、もしくは職場の課長やお偉いさんは、なぜあなたの気持ちをわかってくれないのか。

それは本当に簡単なことなのです。

ほんの30~40年前は、女性が働くということは、今とは想像もできないほどに異なっていました。

ほんの10年前だって、今とはずいぶん異なっています。だからみな、人生の先輩であっても、今のあなたの年代の悩みを、理解できないのでしょう。

クリスマスケーキと定年30歳

1980年時分の日本の女性の働き方がよくわかるドラマがあります。

「女は14、5の頃から、結婚については、いろんなことを考えている。ところが、24、5になると、お見合いで2、3回逢って、相手を決めてしまったりする。周りが、どんどん結婚という柵の中へ私たちを追いこんで行く。いら立つんだけど、とり残されるのも嫌だと思ってしまう。そんな風にして、結婚したくないと、私たちは、心から思っているのだけれど――」(9話冒頭/久美子モノローグ)
「男の人は、ほんの少し私たちの身になってみればいいと思う。25、6になっても結婚しないと、まるでどこかに欠陥があるようにいわれ、ちょっと結婚に夢を描くと高望みだといわれ、男より一段低い人種みたいに思われ、男の人生に合わせればいい女で、自分を主張すると鼻もちならないといわれ、大学で成績がいい人も就職口は少なく、あっても長くいると嫌われ、出世の道はすごく狭くて、女は結婚すればいいんだから呑気だといわれ、結婚以外の道は、ほとんどとざされて、その上いい男が少ないときては、暴動が起きないのが不思議なくらいではないでしょうか?」(12話結び/久美子モノローグ)

あの有名な山田太一さんが脚本を手がけた『想い出づくり。』(1981年、TBS系)という作品の一節です。短大を出て、結婚までのつなぎとして、たった数年会社に勤める。24歳までならば、見合いの話も多く恋も花盛りだけど、25歳になれば、もう売れ残りでちやほやもされなくなるようすを、25日を過ぎたら売れなくなるクリスマスケーキにたとえたのです。短大を出て、たった3年か4年会社に勤め、その間に、恋もして、人生を共にする男を見つける。それを“腰かけ”と呼んだのも、今ではもう懐かしい言葉の響きです。

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当時は、多くの会社が寿退社(結婚退職)を前提に、女性社員を雇っていました。それを内規として定め、しかも就業規則にまで盛り込んでいる企業も普通でした。超大手のエクセレントカンパニーでも状況は同じ。こうした女性の早期退職という会社の方針に対して、大手企業を相手に幾度となく訴訟が起こされてもいます。

1966年に東京地方裁判所で出された判決(住友セメント事件 東京地判41.12.2)に付された調査報告が当時の実情をよく物語っているでしょう。女性のみに限定した超早期定年制を成文化している企業は、大手全体の8%、金融保険業では20.2%もある、とのこと。

文章に残している大手でもこの調子だから、不文律として職場の常識となっていたのは、どれほどか、想像がつくところでしょう。