北京は歴代王朝と中国共産党を結ぶ「舞台装置」

地理的に中国本土と満洲、モンゴルとの交界地に置いた点については、そう言えるかもしれません。ただ、現在の中華人民共和国については、そのほかの理由もありそうです。

北京には、明清以来の皇帝(すなわち天子)が住んだ宮殿をはじめ、さまざまな歴史的建築物が残っています。それらは専制王朝の伝統的統治理念を具現化したものなのですが、中国共産党はその統治理念を継承するための舞台装置として北京を選んだ可能性もあります。

森部豊『唐 東ユーラシアの大帝国』(中公新書)

――なるほど。ならば、中華人民共和国の統治理念は、北京においてどのように表現されているのでしょうか。

まず紫禁城には、かつて皇帝が住んだ乾清宮、その真南の政治を行う太和殿、さらに南に故宮正門の午門、そしてその南には皇城の正門である天安門がある。これらは南北の一直線、すなわち中華世界の中心軸線上に配置されています。

いまの中華人共和国は、天安門の南側に広大な広場を建設し、この中心軸線上に国旗掲揚塔、アヘン戦争以来の建国に至るまでの犠牲者をたたえる人民英雄紀念碑、そして極め付きは永久保存された毛沢東主席の遺体を安置する毛沢東主席紀念堂を建設し、新しい「人民共和国」の軸線を創造しています。国家統治の理念的建造物が、伝統的な軸線上につくられているのです。

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