発禁本を多数出版し、中国共産党に危険視されていた

台湾の出版社「八旗文化」編集長の富察(フーチャー、本名は李延賀)氏が今年3月中旬、病気の母親を見舞いに中国本土を訪れた際、上海で国家安全当局に拘束された。台湾メディアはこのことを大きく報じている

台湾の出版社「八旗文化」の編集長・李延賀(通称・富察)氏[知人の作家・貝嶺さんのフェイスブックより]
写真=時事通信フォト
台湾の出版社「八旗文化」の編集長・李延賀(通称・富察)氏[知人の作家・貝嶺さんのフェイスブックより]

中国政府は26日、記者会見で富察氏について問われると、

「李延賀は国家の安全に危害を与えた疑いにより、司法機関の調査を受けています。合法的な権利は法律により保障されています」

と述べ、拘束の事実を表明した

八旗文化はこれまで、中国大陸では出版できないような書籍を多数発行しており、中国政府から危険視されたと見られる。

中国での突然の拘束は日本も決してひとごとではない。3月には日本の大手製薬会社・アステラス製薬の50代男性社員が反スパイ法違反容疑で中国当局に拘束されている。台湾の編集長はなぜ逮捕されてしまったのか、過去の事例とともに考えてみたい。

出身は中国大陸、中国の少数民族がルーツ

富察氏は中国の少数民族・満洲族で、1971年、中国・遼寧省鞍山市生まれ。90年代半ばに上海・華東師範大学で文学博士を取得し、上海文芸出版社副社長を務めた。中国共産党の党員でもあったとされる。

2005年に台湾籍の女性と結婚し、当初は別々に暮らしていたが、2009年に台湾に移住し八旗文化を立ち上げた。2013年に長期滞在を可能とする居留許可(居留証)を取得した後、台湾(中華民国)の戸籍(身分証)も取得した。

社名の「八旗」は、世界史の授業で聞いたことがある人もいるかもしれない。清朝における満州人が中心の軍事組織で、漢人を主体に編成された「緑営」と対をなす。ペンネームの「富察」も満洲族の伝統的な姓の一つであり、自身の家族の姓でもある。富察氏が自身のルーツに誇りやこだわりを持っていたことを感じさせる。