台湾の出版・言論の自由に圧力をかける中国
また、「台湾民族党」という組織を立ち上げ台湾独立を訴えていた台湾人男性の楊智淵氏は4月25日、中国・浙江省で国家分裂罪の疑いで正式に逮捕された。楊智淵氏は昨年8月、米下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問した直後、滞在中だった浙江省温州市で拘束された。
今回の件について、台湾の人権活動家で中国湖南省の刑務所に5年間投獄された経験を持つ李明哲氏は、次のように語っている。
「富察氏の拘束は、出版及び言論の自由に対して中国から圧力を加える手が、台湾にまで及んでいることを意味する」
「中国が堂々と国家分裂や国家転覆などの罪名を付けるのであれば、富察氏の名誉が汚されることはない。だが、中国のこれまでのやり方として、買春などの不名誉な罪を着せてくる恐れがある。私が逮捕された時も、ネット上に多数のフェイクニュースが流された」
あいまいな法律で社会を萎縮させるのが狙い
中国の国家安全法や反スパイ法は、取り締まりの範囲が非常に不明瞭とされる。何をしたら違法になるのかはっきりしないため、合法と違法の境界線がよく分からないのである。
身を守るためには「とにかく政府の嫌がることはやめておこう。迷ったら安全なほうを選ぼう」という選択をするしかないのだが、こうして社会全体を萎縮させることもまた、中国政府の狙いなのだろう。
だが、前述のような過去の拘束事例を見てみると、ある程度の“傾向と対策”は見えてくる。中国当局が拘束・逮捕に踏み切る際には、主に以下の要素を踏まえて総合的に判断しているのではないか。
・社会的な立場
・交友関係
・主義主張の内容や程度
・影響力
中国共産党は「交友関係」も監視している…
国籍については中国籍、元中国籍、台湾籍、外国籍の4つの指標が考えられる。もっともリスクが高いのは中国籍、元中国籍と台湾籍は同程度で、外国籍はもっともリスクが低い。富察氏の場合は台湾籍を取得していたとはいえ、中国籍は残っていた状態だったため、比較的リスクは高い状態だったのではないか。台湾生まれの台湾籍の人物であれば、もう少しリスクは低かったかもしれない。
社会的立場については、一般人、会社経営者、研究者、民主活動家などの分類が考えられる。富察氏は民主活動家などではないものの、出版社の代表であり、しかも中国共産党の党員という立場でもあったと伝えられている。
身近な交友関係に民主活動家や政府高官、公安関係者などが含まれる場合、リスクは高まると思われる。中国メディアによると、富察氏の妻の父(義理の父)は強固な台湾独立支持者だという。また、元行政院長(首相)の蘇貞昌、元民進党秘書長の羅文嘉ら台湾の政界ともつながりがあったという。