中国をいら立たせる「NATOの東京進出」
5月9日、ワシントンD.C.にあるナショナルプレスクラブで、冨田浩司駐米大使が、東京にNATO(北大西洋条約機構)の連絡事務所を設置する方向で調整を進めていると明らかにした。
中国共産党の機関紙「人民日報」系の新聞「環球時報」は、さっそく冨田大使の発言を取り上げ、「日本に開設する予定のアジア初のNATO事務所はアジアに突き刺さる毒々しい棘になる」と強く牽制している。
台湾統一に執念を見せる中国にとって、日本とNATOとの連携強化は極めて不愉快な話である。ウクライナに侵攻したロシアが、国境を接するフィンランドのNATO加盟申請を嫌がったように、中国もまた、近くに東アジア版NATOが誕生すれば台湾侵攻の足かせとなるからだ。
しかし、日本は、岸田首相が2022年6月、マドリードで開催されたNATO首脳会議に日本の首相として初めて出席するなど連携強化を進めている。これは、ロシアのウクライナ侵攻と中国による台湾統一への動きは「不可分」とする考えに基づくものだ。
筆者が得た情報では、NATOの東京事務所は、2024年には開設される見通しだが、これを境に、東アジアでは中国を想定した安全保障体制がさらに強固なものになるはずだ。
日韓首脳会談で得た東アジア版NATOの手応え
中国・習近平指導部にとっては東アジアにNATOのような同盟関係が構築されるのはもっとも望ましくないことだ。
しかし、5月7日に開かれた日韓首脳会談、そして5月1日にホワイトハウスで行われた米比首脳会談は、東アジア版NATOの誕生を予感させるには十分な内容となった。
○ 日韓首脳会談の要旨
岸田首相が、元徴用工問題を含む歴史認識で、植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを明記した1998年の日韓共同宣言を含め、歴代内閣の立場を堅持する姿勢を表明。「多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思い」と言及。
韓国の尹錫悦大統領も、「歴史問題が完全に整理できなければ未来の協力へ一歩も進めないという認識から脱却しなければならない」と応じ、両首脳の間で、日米韓3カ国の安全保障協力を進め、抑止力と対処力を強化していくことで合意した。