東北のラーメン、香川のうどん、東京圏のパスタ
麺といっても、うどん、そば、ラーメン、カップ麺などとさまざまである。東日本の麺好きは何によっているかを確かめるために、内食の麺(家庭で食べる麺)と、外食の麺に分けて、すでに掲げた分布図と同じ手法で地域マップを作成した(図表3)。
全体的な傾向としては、東日本はラーメン(中華麺)好き、西日本はうどん・そば好きという傾向が明らかである。
内食の麺のうちインスタント麺(カップ麺と即席麺の計)はラーメンが多いと考えられるので、インスタント麺好きの地域(緑)と中華麺好きの地域(ピンク)を合わせると、ほぼ、外食の中華そば好き地域(ピンク)と重なる点から、外食の麺の地域分布がほぼすべてを語っていると解することができよう。
つまり、東日本の麺好きは、うどん・そばというよりラーメン好きによっているのである。
若干例外的な地域分布として目立っているのは、外食の麺で、東日本の中でも北関東の群馬、埼玉、茨城で日本そば・うどん好きとなっている点である。これは北関東のうどん文化を表していよう。
家計調査によると、麺類に対する年間支出金額(2020~22年平均)は、内食の麺では、うどん・そばが生と乾を合わせて5867円、パスタが1378円、中華麺が4556円、カップ麺と即席麺を合わせたインスタント麺が7611円となっている。
今やインスタント麺が最も多くなっているのが印象的である。パスタは千円台と少ないが、グラム単価も安価なので量的にはそう少ないわけではない。しかし、順位の高さで区分したパスタ好きの地域の数は、食のウエートからするとやや多めになっている点については注意が必要である。
●自宅で食べる麺
内食の麺の消費支出額上位4位の地域を掲げると以下の通りである。
パスタ:①東京、②神奈川、③埼玉、④栃木
中華麺:①岩手、②山形、③青森、④秋田
インスタント麺:①新潟、②福島、③青森、④山形
パスタだけは東京、神奈川、埼玉という首都圏で多く食べられているが、その他の麺は、東北諸県が上位を独占している点が特徴である。ただし、うどん・そばだけは西日本の香川が1位と東北以外の地域として突出した地位をもっている。香川のうどん・そば好きはソウルフードであるうどん好きの影響が大きいことがうかがえる。
●外食で食べる麺
外食の麺の年間支出金額(2020~22年平均)では、日本そば・うどんが5260円、中華そばが5891円と後者の方がやや多くなっているがほぼ同等である。
外食の麺の消費支出額上位4位の地域を掲げると以下の通りである。
中華そば:①山形、②新潟、③宮城、④栃木
東日本の麺好きを反映して、東日本勢が上位を占めているが、日本そば・うどんは、1位がうどん県の香川、2位が静岡と西方に片寄っている。東日本の中でも山形は中華そばで1位であるのに加え、日本そば・うどんでも4位とまさしく麺好きの特徴を明らかにしている。
外食の中華そば(ラーメン)については山形と新潟が1位を争っている。2013年から20年まで8年連続で全国1位だった山形市は21年、新潟市に王座を明け渡した。山形市はラーメン店の紹介サイト開設など首位奪還に向け約2300万円の税金を投入。両者とも強力なブランドラーメンは見当たらないものの「総合力」でラーメン好きの県民性を競い合っているという(産経新聞2023.1.14)。22年には、再度、山形市が首位を奪還している。
山形のラーメン好きは、1923年の関東大震災の際、横浜中華街で料理屋を営んでいた中国人が被災して全国各地に移り住み、そこでラーメンを出すようになり、県内では、最初に酒田や米沢に移り住み、そこから広まったのがきっかけという(県のHP)。
新潟には昭和初期から中国出身者「華僑」の中華料理店が多く、それらがやがてラーメン店になっていったという。
信州そばで名高い長野は、内食ではうどん・そばが6位と高いが、外食では、日本そば・うどんは19位と中華そばの9位を下回っており、ラーメン圏に区分されている。信州人は、そばはウチで食べ、外食ではむしろラーメンを好んでいるらしい。
長野と正反対なのが静岡であり、内食では中華麺が5位と多いのに、外食では日本そば・うどんが香川に次ぐ2位となっており、麺好きである点は同じであるが、長野と反対の外食と内食の使い分けを行っているようだ。
大阪、京都、兵庫といった阪神圏地域は、上位10位までに大阪のインスタント麺しか登場しておらず、実際、順位を調べてみると、特に外食の麺で全国の中でもランキングが非常に低くなっている。肉やパンでおなかが満たされているとともに、小麦粉食品としては、麺というより、お好み焼き、たこ焼きといった方面に特色を見いだしているせいであろう。
今後も、引き続き、麺好き地域どうしの熱い戦いが繰り広げられそうだ。