卵の価格は1973年のオイルショック前は100gあたり約20円、今年に入り同45円と高騰したが、昨年までは同25~30円。物価の優等生と言われるゆえんだ。統計データ分析家の本川裕さんがNHK受信料の視聴1時間当たりの単価を独自に推計したところ、「物価の劣等生と言わざるを得ない数字が出た」という――。

1951年→2022年 値段は傘1本1.6倍だったが床屋は43倍

モノやサービスの値段については誰もが気になる関心事であり、物価が下がるデフレでは企業が困り、物価が上がるインフレでは消費者が困る。今回は、物価動向の際に参照されることが多い消費者物価指数ではなく、家計調査の単価の動きから代表的な品目を取り上げてモノやサービスの値段の動きの背景について探りを入れてみよう。

消費者物価指数は同じ品質のモノ・サービスの値段の推移をたどる点で厳密に物価の推移を追うことができる。他方、家計調査は、例えば時計の値段でもチープなデジタル製品が主流となりつつある時期か、アナログ製品や高級品志向が大勢の時期かによって単価の動きに違いが生じる。このため、厳密な価格推移を追うのには適していない半面、世相の推移をうかがい知ることができる点がメリットである。

最初に、モノの価格とサービスの価格が長期的に対照的な推移をたどっているという点について、傘と床屋の値段の推移を代表例に取り上げて示した(図表1参照)。

1本当たりの傘の値段は1951年905円、そして71年後の2022年に1447円と、その年月の経過のわりにあまり変わりがない(1.6倍)。1973年のオイルショックの頃のインフレの時期、バブルの頃の高級品志向が高まった時期に傘の値段も上昇したことがあるが、その後の値下がりで相殺されている。一般に貨幣価値はこの間大きく低下しているので、実質上は、傘の値段は大きく下がってきているのである。

一方、1回の床屋の値段は、1951年に62円だったのが2022年に2676円と43倍に値上がりしている。

1.6倍と43倍という差はひどく大きい。1951年段階では傘一本買うお金で14回床屋に行くことができた。ところが、2022年には立場が逆転。床屋1回の値段で傘が2本買えるのである。われわれは七十数年経つうちに全く異なった商品世界に生きることになったと言うことができる。実際、私が子どもの頃には、大人も子供もしょっちゅう床屋で時間を過ごしていた気がする。

こうしたモノの価格推移とサービスの価格推移の違いは、「労働生産性の上昇率格差」と「貿易を通じた国際流通への適性」の2つから説明できる。

労働生産性の上昇率格差とは、傘一本を製造する労働時間が大規模生産や機械生産によりどんどん少なくなったのに対して、床屋1回には必ず理髪師1人の小1時間を要するというという違いである。

貿易を通じた国際流通への適性とは、傘を作る労働者は人件費の低い国の労働者でもよいのに対して、理髪師は人件費の高い日本に住む労働者でなければならないという違いである。

傘で第2次産業を代表させ、床屋で第3次産業を代表させると、この2種類の事情が3次産業が2次産業に対して大きく成長するいわゆる「サービス経済化」の基本要因となっている。

なお、理髪料は1999年をピークに低下傾向にあった。競争激化、美容室との競争、価格破壊新サービスなどによるものと思われる。ただし、2019年を底にやや回復傾向が見られる。一方、傘も使い捨て商品化がやや見直され、2009年を底に最近やや上昇している。円安の進行や日傘需要の高まりによるのかもしれない。