NHK放送受信料は「物価の劣等生」
最後に、モノの価格と比べて、相対的に上昇する傾向にあるサービスの価格においても、品目によっては大きな差がある点を見てみよう(図表3参照)。
ここでは先に取り上げた理髪料とNHKの放送受信料の単価推移を比較した。
サービス価格は理髪料の場合は支出金額と回数が調べられているので1回当たりの単価推移が家計調査から得られるが、NHK放送受信料は月決め料金であることもあって家計の年間支出額しか調べられていない。
そこで、世帯員1人の年間視聴時間を平均世帯員数に掛け合わせて世帯の総視聴時間を算出し、年間支出額を除して視聴1時間当たりの単価を独自に推計した。世帯員1人の年間視聴時間の推計にはNHK全国個人視聴率調査(6月・11月実施)による週平均の1日当たり視聴時間を使用した。
理髪料は2000年の1回当たり3129円から2019年の2557円へと18.3%低下している一方で、NHK放送受信料は視聴1時間当たり2000年には33.4円だったのが2017年には43.6円と30.5%も上昇している。2割低下と3割上昇の差は大きい。
NHK放送受信料の世帯の年間支出額ほぼ1万4000円台で横ばいであるが、世帯員数も1人当たり視聴時間も減少傾向にあるため、こうした結果となるのである。まことに、NHK放送受信料は物価の劣等生と言わざるをえない。
理髪料はコロナが襲った2020年から上昇に転じ、一方NHK放送受信料の単価は2021~22年に逆に低下したため、両者の格差は縮まっている。
理髪料はコロナの影響で理髪サービスを受ける回数が減少し、恐らく理髪を安く済ませていた若い層での落ち込みが大きかったため単価はむしろ上昇したものと見られる。
最近のNHK放送受信料の単価は、2020年にはNHKの個人視聴率調査が行われなかったため2021~22年しか推計できないが、コロナによる外出抑制でテレビ視聴時間がやや長くなったため、単価そのものは低下したと見られる。
いずれにせよ、コロナの影響が収まれば、NHKの放送受信料の大幅引き下げがない限り、NHK放送受信料の物価の劣等生状態は続くと予想される。
NHK放送受信料については、少なくとも電気、ガス、水道の料金のように基本料金と従量制を組み合わせた価格体系に移行しないと視聴者の不満、イライラは解消されないと考えられる。