全身麻痺と夫の異変

くも膜下出血の手術後、約1カ月入院した華岡さんは、リハビリを経て、元通り生活できるまでに回復。そこまでは幸運だったが、その後が芳しくなかった。

退院から1カ月ほどすると、くも膜下出血の手術時に使用した薬の副作用で全身麻痺を起こし、3カ月の入院を強いられたのだ。しかもその影響で、一時は寝たきり生活になってしまい、約半年間のリハビリ生活となった。それでも、つえで歩けるまでになったが、長時間立っていることは難しく、大好きな料理が思うようにできなくなってしまう。

一方、夫はしばらく入退院を繰り返した華岡さんが入院に必要なものを「家から持ってきてほしい」とか、「買ってきてほしい」と頼んでも、頼んだものを忘れてしまうことがしばしば。また、華岡さんの症状や治療方針について、主治医から一緒に説明を聞いたはずなのに、全く覚えていない。うっかり忘れにもほどがある、と華岡さんは不審に思った。

さらに当時、66歳でまだ警備の仕事をしていた夫は、会社からの電話を受け、翌日の仕事が入ったはずなのに、当日仕事に行かないことが頻発。華岡さんが電話を受けて取り次いだため、電話があったことは間違いないのに、会社から注意を受けても、「電話なんかもらってない!」と言い張って譲らない。「このままではまずい」と思った華岡さんは、その後はFAXを送ってもらうように対策した。

それだけではない。夫は車の運転をしていて、道をよく間違えるようになった。カーナビが付いているのに、ナビの言う通りに運転できないのだ。華岡さんが同乗していても、信号無視はするわ、スーパーで駐車するときにアクセルとブレーキを間違えて店に突っ込みそうになるわで、生きた心地がしない。そのうえ、スーパーの中では、通路の真ん中に仁王立ちになったまま動かないことがしばしばで、他の客の迷惑になる。買い物した帰りには、自分の車まで戻れず、他人の車の鍵を開けようとするため慌てて止めなければならない。

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華岡さんは、「もう運転はやめてほしい。病院に行ってほしい」と頼んだが、夫は一向に聞く耳を持たない。

70歳になると夫は、「背中が痛い」と言って病院に行った。すると医師は、「背骨の圧迫骨折か、もしかしたらガンかもしれない」と言い、大学病院に入院することに。

夫の背中の痛みはガンではなく、圧迫骨折であることが判明し、手術を受け、2週間ほど入院が決まる。その病院の看護師長が、華岡さんがくも膜下出血で入院したときの人だったため、「夫の認知症も調べてほしい」と頼んでみると、主治医が簡易検査をしてくれた。

結果は、「認知症なので、退院時に物忘れ外来を予約してください」。すぐに予約するも、混んでいたため、診察を受けるまで3カ月待ち。その間も夫は、「行かない」と言い張って華岡さんを困らせた。

結局、華岡さんの家から車で15分くらいのところに住んでいる次男に説得してもらうと、夫はようやく物忘れ外来を受診した。