要介護1の夫と要支援1の妻
現在、夫は78歳、華岡さんは73歳。華岡さん自身、くも膜下出血の後の全身麻痺の影響で、体が不自由になったため、要支援1の判定が出ている。
「夫と話をすると、かみ合わなくてストレスになるので、あまり関わらないようにしています。私も体が不自由なので、自分の事で精いっぱいなんです。料理は大好きなんですが、長時間台所に立っていられなくなってしまったので、宅配のお弁当でしのいでいます」
テレビばかり見ている夫とは対照的に、華岡さんは不自由な身体でありながらも、趣味のガーデニングに勤しみ、ブログを書くなどして過ごしている。
「夫の介護にやりがいや喜びは一切ありません。息子たちも、『今までのことを思ったら、面倒を見るつもりはない』と宣言しています」
夫がリストラをされて、家のローンが払えなくなったとき、小さいながらも立派な一戸建てをプレゼントしてくれた長男は、現在50歳。33歳で離婚し、上の子を引き取って華岡さん夫婦と同居していたが、華岡さんにとっての孫は、昨年結婚して家を出た。
「介護の悩みを相談する相手はいませんし、誰も手伝ってはくれません。私の身内はすべて亡くなっていますし、夫の身内も高齢で難しいです。今はまだ、夫は自分のことは自分でできていますが、食事介助やトイレ介助などが必要になったら、施設に入れようと考えています」
華岡さんは、施設についてネットで情報収集し、ケアマネジャーにも相談してみた。
「入居金はある所とない所があり、月の費用は基本部屋代と食事代と諸経費で、平均月15万〜30万くらい。その他にも費用が掛かるようです。費用が月10万円以下の所もありますが、内容がそれなりで、『お勧めできない』と言っていました。認知症の場合の受け入れ先は少なく、特養は要介護3以上でないと入れず、入居待ちの人が多くて、すぐには入れません。夫の場合、足腰がしっかりしているので、徘徊して迷子になりやすくて目を離せないタイプらしく、逆に寝たきりになった方がお世話は楽だと言う方もいますが、どちらにしても介護する方は大変です……」
ケアマネは、「今は半日型のデイサービスに週2回通っていますが、今後は1日型に行き、慣れてきたらショートステイを繰り返して、費用的に入所できそうな老人ホームの空き待ちがいいでしょう」とアドバイスする。
「単純計算すると、施設の費用は年間180万~360万円。月15万円でも年金では足りず、貯金を切り崩すしかありません。10年生きたら1800万~3600万円! お先真っ暗です……」
これは一人あたりの費用だ。夫婦で入るとなれば、この倍近くかかる。預貯金が使い切れないほど潤沢にある人や、自分の余命が分かっている人ならまだしも、ごく一般的な人なら、「年金で賄えない額の施設には、恐ろしくて入れない」と思うのではないだろうか。
老老介護の場合、被介護者を「施設に入る資金が足りない」と分かった時点で、介護者自身も高齢のため、どうすることもできないケースは少なくない。自分に介護が必要になったときのことを考えると、配偶者や親に貯金を使い果たしてしまうことはできない。「人生100年時代」だとか、「誰もが輝ける社会に」などというフレーズばかりが先走って久しいが、老後が不安な社会で、人は何歳まで輝けるだろう。(以下、後編=老老介護の実例2へ)