69歳の女性は32歳の時に離婚して4年間の短い結婚生活を終えた。以後、実家近くで暮らしている。父親が肺がんで亡くなったあと、母親も70代に入ってから腸閉塞を何度も繰り返すように。女性は以後、20年以上介護している。母親は現在93歳で要介護4。日々身の回りのケアをしている女性も今年70歳で、いずれは介護される側になる――。
ふたを開けようとしているシニアの手元
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです
【前編:老老介護の実例1のまとめ】現在73歳の妻は61歳の時くも膜下出血になり、その直後、現在78歳の夫はアルツハイマー型認知症になった。夫は要介護1、妻も要支援1と判定された。妻は、「夫が食事介助やトイレ介助などが必要になったら、施設に入れようと考えていますが、費用のことを考えると、お先真っ暗です……」と語る。自分に介護が必要になったときのことを考えると、配偶者や親に貯金を使い果たしてしまうことはできない厳しい現実があった。

後編=老老介護の実例2は、現在69歳の女性の事例だ。

がんによる父親の死

東北在住の犬山奈美子さん(仮名・69歳・バツイチ)の父親は金融系の会社員だった。24歳の頃に、知人の紹介で看護師をしていた1歳年下の母親と見合いをして結婚。母親は1年後に犬山さんを出産し、その4年後に妹が生まれ、その2年後に弟が生まれた。

酒や煙草、新しいもの好きの父親は、テレビや車を他の家庭より早く購入。現在の上皇の結婚パレードや大相撲が放送される日は、テレビを目当てに近所の人が大勢集まり、休みの日は家族を車で遊園地やお祭りなどに連れて行ってくれた。

当時としては珍しく、父親は女性が働き続けることに理解があったため、母親は産後すぐに看護師の仕事に復帰。父方の祖父は戦争で亡くなっており、父方の祖母と同居していたが、母親は祖母との折り合いが悪く、祖母を頼ろうとはせず、仕事をしながらも家事や育児を一人でこなした。両親は末っ子の弟ばかりをかわいがったが、犬山さんは「男の子だから期待されているのだな」と思っていたし、同居していた祖母にかわいがられていたため、きょうだい仲は悪くなかった。

やがて、犬山さんは高校卒業後、東京都内の食品系の会社に就職。しかし、都会の生活が合わないという気持ちが年々大きくなっていき、4年ほどして地元に戻り就職。28歳の時に、友人の紹介で飲食業をしている4歳年上の男性と知り合い、結婚した。同じ年、大好きだった父方の祖母が老衰で亡くなった。90歳だった。

ところがその4年後。夫の浮気が発覚して離婚すると、実家から車で30分ほどのマンションの4階に引っ越した。

それから数年後、犬山さんが40歳の時に、65歳の父親に肺がんが見つかる。父親は、定年退職する60歳目前の頃に仕事を辞め、自分で不動産会社を立ち上げて、まだ現役で働いていた。幸い初期のがんだったため、抗がん剤治療を行い寛解するも、67歳の頃に再発。当時66歳の看護師の母親は保健師として市役所から依頼された仕事を続けていたが、父親が「仕事を続けていいよ」と言うため、仕事を継続しながら、がんが再発した父親を懸命に看病した。それでも約2年半後、父親は亡くなった。