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親子の縁を切る
関東在住の町田朋美さん(仮名・当時29歳)にプロポーズした1歳上のIT企業勤務の男性は、町田さんと母親(当時49歳)の電話でのやり取りを聴いていた。町田さんはそれを承知していたが、あるとき衝撃的なことを言われた。
「以前から彼は、私が母と連絡を取ると、私が精神的に不安定になることに気付いていました。だから私が母に電話をする時に側にいてくれたのですが、そのときの母のせりふに驚いて、『きみの親の言動はやくざのようだ』と言ったのです」
彼の父親は公務員、母親は彼が学生の頃に病気で亡くなっている。この件があり彼は、「きみのお母さんのことをリスクに感じるので、結婚をやめたくなった」と言った。
もちろん、好きだったからこそ2年ほど付き合ってきて、プロポーズまでした相手だ。そう口にするに至るまでには、かなりの葛藤があったに違いない。
「彼が私の母を恐れる気持ちは、私自身も物心ついた頃から感じているものです。これまで一度も私の母のような人と関わってこなかった彼にとっては、大きなリスクに感じるであろうことは理解できました。だから私は彼の気持ちを尊重したいと思い、『母のことが嫌なら、私と結婚しなくていいし、別れてもいいよ』と伝えました。そのうえで、彼が安心できるように行動で示そうと決断し、彼が感じる不安に対する対処法を私が以前から受けていた心理カウンセラーに聞き、彼に伝えるようにしました」
やがて町田さんは、カウンセラーのアドバイスを受けて、両親の戸籍を抜け、自分が筆頭者となる「分籍」をした上で、彼の戸籍に入籍。悩んだ末に彼は、「きみのお母さんのことは嫌いだけど、自分が結婚するのはきみだから、お母さんは関係ない」という結論に至ったのだ。
義父も、「嫁に来てもらえば、あなたはこちらの身内になるのだから、これまでの家庭のことは気にしなくてもいいんじゃないか。それに結婚は息子が決めたことだから、父親が口を出す必要はない」というスタンスだった。
また、母親が以前送りつけてきた、町田さんと父親が写っている幼い頃の写真や、町田さんが書いた文集なども、カウンセラーの助言に従い、すべて母親に送り返した。
その後、母親からも、父親からも、連絡はない。どちらにも、「私のことを尊重するなら、私が連絡をするまではしてこないでほしい」と手紙で伝えたのが最後だ。
「分籍は、戸籍を分けるだけで、法律上の影響はありません。相続権もありますし、民法の親の扶養義務もあります。でも、精神的に『自分の意志で親から離れる』という行動をとったという証しになるので、親に対してというよりも、“自分のため”にするのであれば、良い手段だと思っています」
町田さんは、「分籍」「返送」「絶縁宣言」という一連の行動を経て、ようやく両親から、物理的にも精神的にも距離をとることができ、心の荷が軽くなるのを感じた。