毒の連鎖を断ち切る

両親との縁を切り、幸せを得た町田さんだが、その決断をしたとき、皮肉なことに「両親のことが大好きだった」ということに気付いたという。

カウンセラーのアドバイスに従い、両親に手紙で「今後は自分の意思で会わない」と伝えた後、しばらくは心の葛藤があった。

「幼い頃の私が、今の私を責める声がするのです。『どうしてこんなことしてくれたの? 今までどんなにつらくても、大好きなママを傷つけないように、愛されるために、認められるために頑張ってきたのに! 全て壊しちゃったじゃない!』と。だからこそ私は、もしも自分の元に子どもが来てくれるならば、自分がされたような扱い方は絶対にしたくないと思っています。そのために一番大切なのは、私自身が自分で自分を大切にすること。自分の機嫌は自分で取り、子どもやパートナーに機嫌を取ってもらおうとか、幸せにしてもらおうと求めないことだと思っています」

改めて、「(両親のことを大好きだった)私と両親は共依存でした」と振り返る。

「実家で暮らしていた頃は、『家族だから』『親子だから』『娘だから』と言われて、家のため、親のために生きることを望まれ、親の望みをかなえるのは、子どもである自分の役目であると思っていました。また、『親だから私が正しい。子どもだからあなたが間違っている』という母の世界で生きていたので、私は、『常に間違えている存在』という認識で生きているほうが楽でした」

シンクいっぱいにためられた洗い物
写真=iStock.com/NickyLloyd
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母親は常に、「正しいことを言っていれば、間違っている相手には何を言っても良い」「間違ったことを指摘されて傷つくのは、傷つくほうが悪い」という態度で町田さんに接した。

しかし町田さんが社会に出てみると、母親のような人には出会わなかった。町田さんは、「私は常に間違えている存在」という思い込みのせいで職場になじめず、転職を繰り返し、思い込みを払拭するのに8年も費やした。

「その期間、私は仕事でたくさんの『家族』を看ることと並行し、専門家に頼ったり、心の安定した人に支えられたりして、少しずつ歪んでいた価値観を“普通”に合わせることができるようになりました。そして、ようやくマイナスからゼロになって、穏やかな日々を過ごすことができています。そのせいでしょうか、今では正論を言う人が苦手です。『正しいこと』を言う人が『正しい人』とは限りませんから……」