子の気持ち親知らず
2019年11月、小窪百恵さん(仮名・50代・既婚)は76歳の母親を病院の物忘れ外来へ連れて行った。受診時に長谷川式認知症スケールを受けると、母親は、今日の年月日と曜日を答える質問は全滅。3つの言葉を言われて、後で答える質問は、覚えていたのはひとつだけ。5つの品物を見せて隠した後、何があったか答える問題も、言えたのはひとつだけ。知っている野菜の名前は、スイカとニンジンと大根とレンコンしか言えず、同じ野菜名を繰り返す。「時計描画テスト」では、「10時10分の時計を描いてください」と言われたが、丸を書いた後、針が描けない。
「ショックでした。母は絵が得意なので、時計の絵はまだ描けるかなと思っていましたが……。丸に数字を書き入れ、10時の針は描けたものの、10分のところに針を描くことがどうしてもできませんでした」
母親の認知症は中等度ぐらいという結果となった。
2020年1月。母親は要介護3になったのを機に、デイサービスを「ほぼ毎日利用」に変更。しかし、デイサービスが休みの日のこと。2階の部屋で休んでいると、下階から父親が声をかけてきた。
「おーい、買い物に行くかー?」
81歳になった父親は足腰が弱ってきており、飼っている犬と猫の餌や、仏壇に供える花、日用品や食料品など、いつも大量の買い物をするため、小窪さんが手伝わないわけにはいかない。母親は塗り絵に夢中になっていたため、一人で留守番をさせることにした。
小窪さんは、買い物のついでに母親の冬物のセーターをクリーニングに出した。先週10枚出して、今週も10枚出した。家でセーターを洗う元気と時間は、小窪さんにはなかった。母親に見つかると、もううまくできないのに「自分で洗える」とか、「お金がもったいない」と言い張るので、こっそり出して、こっそり片付なければならなかった。