母親は、スパゲティに黒豆やブルーベリーを
デイケアやデイサービスの利用料の振り込みも、母親が金額を気にするので、母親に見つからないように、こっそり行った。
帰宅して買ってきたものをしまっていると、台所で母親はブルーベリーを見つけ、「ぶどう?」と言って首を傾げた。その後、小窪さんが昼食にスパゲティを作ると、母親は、「『黒豆』入れたらどうなるかしら?」と独り言のようにつぶやきながら、ブルーベリーを入れようとしていた。
食後の後片付けがおわり、「さぁ、ゆっくりしよう」と座ったところで、母親が何度も何度も階段を上がったり下りたりし始める。小窪さんは心がザワザワしてきて、気が休まらない。
すると今度は母親が、冷蔵庫からいろいろな物を出し、皿にのせて並べ始めた。3人では食べきれない量の漬物や佃煮の封を切ってしまい、ジッパーの袋で作ったきゅうりと昆布の浅漬けは、袋から液が流れ出ている。
それを見た途端、小窪さんは声を荒げていた。「もー! 嫌なことばっかりする! うっとうしい!」
母親は、「私が何したの? 食べればいいじゃない!」と怒り出す。「めっちゃウザイ! もう、あっち行って!」
しばらく言い争いのようになり、母親は自分の部屋に入ると、雨戸まで閉めてしまった。
それから数時間後、夕食の準備が整った頃、母親は何もなかったように食卓に座っていた。すると父親が母親に、「怒られとったなあ〜、怖かったなぁ~」と冗談めかして言う。小窪さんはせっかく忘れかけたイライラを今度は父親に感じる。
夕食の後、母親に「お父さんは後でするから、先にシャワーしてね」とシャワーへ誘導すると、母親は素直に従った。しかし浴室に入ったきりなかなか出てこない。やっと出てきた母親は、「お湯が入ってないお風呂に入らされたわ! お湯入れといたわよ!」と怒っている。
小窪さんが「は? シャワーだって言ったやん」と言うと、「そんなん、聞いてないわよ!」と憤る。
そこへ父親がまた、「え? お湯の入ってないお風呂に入らされたん? かわいそうに〜」と小バカにしたように口を挟んでくる。
「とても嫌な気分になりました。なんで私がこんな目に遭わないといけないのでしょう? 両親のためを思って仕事を辞め、夫を置いて同居をしているのに。『自宅に帰って元の暮らしに戻りたい』と何度思ったかしれません……」
子の心、親知らずだ。小窪さんは台所を片付けながら、人知れず涙を流し、2階の部屋に入ると、イヤホンで好きな音楽を大きめの音で聴いた。