夫のリストラとくも膜下出血

夫のリストラは生活を一変させた。それまでは家族で年1回は国内外に旅行に行ったり、たびたび外食を楽しんだりしていたが、そんな余裕はなくなった。

華岡さんは賭けに出た。なけなしの貯金をはたき、衣料品店を起業したのだ。幸い、近くに競合店がなかったことから2〜3カ月ほどで軌道に乗り、衣料品店の一角にエステサロンも併設。こちらもすぐに固定客が付き、従業員を4人雇うほどになり、生活にも少し余裕ができた。

一方、リストラされた夫はろくに就職活動もせず、友人知人に「何か仕事はないか?」と声をかけるだけ。職業安定所には行くが、パソコンの講習を受けても何一つ身につかず、友人知人に紹介された仕事も、「合わない」と言って数日で辞めてしまい、無職状態が続いた。

見かねた息子たちが、話し合いの場を設けて、「どういうつもりなのか」と問いただそうとするも、夫は逃げてばかり。やっとのことで警備の仕事を見つけてきて、無事、就職が決まったとき、リストラされてから3年も経過していた。

次男は30歳になると、結婚して家を出て、実家から車で15分くらいのところに新居を構える。衣料品店とエステサロンを経営する華岡さんは60歳を超えると、そろそろやめてゆっくりしようかと考え始めていた。

ある年の夏の午後。華岡さんは家でブログを書くためにパソコンの前に座っていた。すると後頭部に激痛が走り、いつもの頭痛とは違う痛みに不安を覚える。そうこうするうちに吐き気をもよおし始め、痛みに耐えながら自力で病状をパソコンに打ち込んで検索したところ、くも膜下出血と確信。

脳のイメージ図
写真=iStock.com/PALMIHELP
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すぐさま夫に電話をかけると、「今は(警備の)仕事場から離れられないから、19時すぎまで待ってろ」と言われる。「もう待てない」と思った華岡さんは、夫の電話を切ってすぐ、自分で救急車を呼んだ。

華岡さんの家から、今まさに救急車が走り出そうとするタイミングで、夫が帰宅。すぐさま夫が救急車に同乗する。最初に運ばれた病院では、「手に負えない」と言われ、大学病院に再搬送された。華岡さんは意識を失っており、気付いたときには大学病院のICU。「明朝8時から手術します」と声をかけられた。

翌朝8時、8時間に及ぶ手術を受けると、華岡さんは一命を取り留めた。