機能1:観察を通じて学ぶ「真似し合い」

私たちは、親兄弟から教員、専門家に至るまで、自分よりも特定のことに秀でた熟達者のやり方を真似ることをして学んでいきます。「学ぶ」という言葉は、もともと「真似る」と同じ語源を持つ言葉だとされている通り、リスキリングについてもこの「真似し合い」の機能を外すわけにはいきません。

「真似をすること」は、人の幼児期からの基本的な行動です。心理学者ジャン・ピアジェが幼児に「ごっこ遊び」のような模倣行動(imitative behavior)に注目したように、人間は生後すぐに親や目の前の人の模倣を始め、それを発展させていきます。

この「真似」のような模倣をより精緻化し、「モデリング学習」として理論化したのが、アメリカ心理学会会長も務めたアルバート・バンデューラです。人は、自ら独学するのではなく、「他者の観察」を通じて学んでいくプロセスが精査されていきました。

企業における学びにおいても、「真似」は基本中の基本であることはすぐにわかるでしょう。特に日本は未経験者をアサインし、現場での実践を通じた訓練=OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を重視した新人育成を行ってきました。名刺の渡し方、顧客との折衝の仕方、社内でのふるまい方などなど、社会人としての基礎学習も、先輩や講師の「真似」や「模倣」がベースとなって進んでいきます。

製造現場のブルーカラーの領域でも、先輩やメンターの機械の扱い方などを工場の現地で観察させるジョブ・シャドーイングが広く行われますし、ホワイトカラーにおいても、パワーポイントの作り方、プレゼンテーションのやり方などをオフィスで直接見て覚えるものです。ベテラン社員や教育係、上司などからの「上からの指導」に限らず、同期や同僚、先輩後輩の間柄でも、それぞれのうまい仕事の仕方、ふるまい方を真似し合うことが、「他者」を通じた学びの第一の特徴です。

機能2:教えることで学ぶ「教え合い」

人は、より意図的に他者に対して何かを「教える」ことがあります。企業における教育係やメンターの役割は、当然ながら教える相手に対する学びの援助やサポートをすることですし、資料や講演を通じて、スキルや知識を教えることは、研修訓練の基本です。

「先生―生徒」「メンターとメンティー」のような明示的な役割ではなくても、私たちは同僚や上司からさまざまなアドバイスやフィードバックを受けながら成長します。それらが一切なければ、自分の客観的な上達具合や成長の度合いなどを測ることはできません。

また、「教える」ことは教える側にとっても強力な学びの機会にもなっていきます。「人は教えることによって、もっともよく学ぶ」と言ったのは、ストア派哲学者のセネカですが、アウトプットとインプットは同時並行的に行うことで力を発揮します。

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実は、動物行動学によると、こうした「教える」という行為は地球上の動物の中でもかなり珍しい行動であることが指摘されています。血縁者でもない他の個体に対して「わざわざ教える」という意味での教育行動は、人間以外ではミーアキャットやアフリカに生息する鳥、そしてアリの一種といったわずか数種類しか確認されていないそうです。この教え合いという行動は、高度な社会的動物であるヒトの特徴がよく出た、とても「ヒトらしい」行動であると言えるでしょう。