子供の不登校で悩む親に産業医はどんなアドバイスをしているのか。大手外資系企業を中心に年間1000件以上の相談を行っている産業医の武神健之さんは「個人差が大きく難しい問題だ。在宅勤務をしたいという相談を受けることもあるが、人事や上司とよく話すように促すしかない場合もある」という――。
テレワークをする人
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「子供が家にいるから出社できない」

こんにちは。産業医の武神です。

私が行っている産業医面談は、必ずしも社員本人のココロやカラダの健康相談ばかりではありません。中には社員の子供に関する相談もあります。内容は子供の病気の相談や子供のことに絡んで親社員がなんらかの影響を受けているというものなどさまざまです。

そのような相談のなかで、ときに「子供がいるから(子供のために)自分は出社して働けない」という社員の訴えを聞くことがあります。しかし、同じような状況の中でも出社して働いている社員もいます。どんな違いがあるのでしょうか。いくつかの例を紹介しましょう(※プライバシー保護のため事実関係を一部変更しています)。

最初のケースはコロナ禍の話です。

緊急事態宣言も何回目かになって新型コロナ感染症に対する緊張感や恐怖も弱まり、どのような対策をするか等は人それぞれ、会社それぞれとなっていた頃、40代の男性Aさんが産業医面談で、「在宅勤務じゃないと働けない」と訴えてきました。

聞いてみると、会社は全社員に出社を要請しているが、Aさんの子供の学校はまだ在宅学習なので、夫婦2人が出社してしまうと子供が家に1人残ることになり、それはできない。それなのに会社は出社しろというと、Aさんは教えてくれました。

Aさんはストレスは感じているものの、特に睡眠障害や他の症状があるわけでもなく、産業医としては話を聞く以外にできることはない面談でした。

子供の自立を妨げているケースもあった

実はコロナ禍の3年間、子供を持つ社員からのこのような相談はたくさんありました。私は、子供が一人っ子で小学校低学年までであれば、「家に誰かはいないと心配ですね」と心から共感できましたが、子供が中学生でも同じように訴える社員や、兄弟で上の子の協力が得られていないがためという場合もありました。そのような親社員たちの共通した口癖は、「まだ子供なのに、うちの子はそこまでできない」でした。

もちろん、親である社員本人が「できない」と言っているので、私は「できますよ」とは言いません。が、この種の面談を多くする中で、はじめから親が「できない」と決めつけることで、子供が自立する機会を失っているケースもあるように感じました。そのような面談を数多く経験するうちに、親社員が出社できるか否かの判断の根拠は、子供の年齢や兄弟構成ではなく、親にある場合も少なくないと思うようになりました。