うまくいく人は「注目バイアス」のしくみを知っている

そして、仕事で成果を上げている人、スポーツで結果を出している人、恋愛がうまくいく人、人間関係の悩みが少ない人など、どんな分野でもうまくいく人は総じて、この「注目バイアス」の働きをうまく利用しています。

成功した人はよく「成功したいなら、まず得たいものを明確にすること」と言いますが、脳科学的にこれは真実です。

なぜなら、得たいものを明確にした瞬間に「注目バイアス」の機能が働き、得たいものに関連する情報がどんどん入ってくるからです。

たとえば、目を閉じて「この部屋に赤系の色は何個あるか数えてください」と言われたら、何個あると答えるでしょうか? 準備ができたら、まず目を閉じて、そして目を開けてみてください。

すると、思っていた以上に赤系の色があることに気づいたかもしれません。このとき、赤系の色が目に飛び込んでくるような感覚を覚えることがありますが、これが「注目バイアス」です。つまり、得たい情報があると脳はどんどんとり込もうとするのです。

たとえば将来、「海外で仕事をしたい」という希望があるのなら、それを意識してみます。

すると、意識したことを脳は勝手に探そうとするため、道を歩いていても、動画を観ていても、日々の仕事をしていても、人と話していても、無意識のうちに「海外で働くこと」に関連した情報が集まるようになります。

古今東西うまくいっている人の多くが、「チャンスはつかむものだ」と言いますが、自分の得たいものを明確にする習慣を大切にするのは、経験として「注目バイアス」のしくみを知っているからかもしれません。

点は全部でいくつ? 「注目バイアス」を体感するテスト

ただし、どんな認知バイアスの働きにもデメリットがあります。

「注目バイアス」の場合、注意を向ける先を間違えると、本来、見るべきものが見えなくなってしまいます。

ここで1つテストをしてみましょう。図表1を見てください。

この図のなかには、濃いグレーの点がいくつあるでしょうか?

正解は12個ですが、グレーの点を数えているとき、不思議な体験をされた方もいるかもしれません。1つの点を数えようとすると、ほかの点が消えてしまうのです。

これが「注目バイアス」のもう1つの効果。脳は1つのことを見ようとすると、それにまつわる情報を集めてはくれますが、それ以外のものは見えなくなってしまうのです。

この現象は、うまくいかない分野でよく見られます。

たとえば、恋愛で相手の容姿や経済力ばかりを重視してしまう人は、それ以外の性格的な情報が目に入らなくなる傾向にあります。すると、結婚してから、相手が短気で完璧主義、家族のことを大切にしないといったことに気づいて、離婚というケースもたびたび聞きます。

つまり、容姿や経済力などよい点ばかりに注目してしまい、悪い点がほぼスルーされて見えなくなってしまうのです。

しかも、このようなよい点ばかりを見ている人にいくら「別れたほうがよい」とアドバイスしても、悪い点そのものを理解できないため、まったく意見を聞いてくれません。

同じ風景を見ていても、同じ相手と向き合っていても、あなたが見ている世界とわたしが見ている世界、道行く人が見ている世界はまったく異なります。なぜなら、1人ひとりが注目するものによって、「注目バイアス」の働き方が違うから。

わたしたちは目で同じものを見ているようで、じつはこの世界を脳で見て、別の人生を歩んでいるのです。

「注目バイアス」は、本書でとり上げている「アイソレーション効果」、「確証バイアス」、「ネガティビティバイアス」、「楽観主義バイアス」、「自己参照効果」など複数の認知バイアスを生み出しています。それだけ影響力の強い認知バイアスだということです。