一度壊れた人間関係はなぜ修復するのが難しいのか?
もう1つ、具体例をとり上げてみましょう。
最悪の出来事が起きたり、激しく衝突したり、口論したり、わたしたちはマイナスな体験をするとその出来事が記憶に長く残ります。そして、頭ではわかっているけど、その人との関係がぎこちなくなってしまいます。なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
これを理解するために、次の写真を見てください。
この写真を見ると何が目に入ってきますか? もしかすると、色の濃いトマトばかりが目に入ってくることに気づくかもしれません。
これにも「注目バイアス」が働いているのです。目立ったものが目に入ってくる現象を、別名、「アイソレーション効果」といいます(ドイツの精神科医で小児科医のフォン・レストルフが発見したことから、フォン・レストルフ効果とも(※3))。
この注目バイアス(アイソレーション効果)が働くと、次にその相手を見かけたとき、どんなにいいことを言われても、悪いふるまいや行動ばかりが目に入ってきます。たとえば、話している相手の目が気になると、瞳ばかり見てしまいます。
また、はじめて出会ったときに失礼なことを言われたら、相手のマイナスな言葉に脳は注目します。そのあとに、どんなによいことを言われたとしても、脳は相手のマイナスな点を探そうとするのです。
その結果、ちょっとした軽い冗談でもそれが嫌なことに聞こえてしまうことがあります。
すると「ほらまた言っている、イヤだな」と思いますよね。
だからAさんは失礼な人に違いないと思うわけです。そして、それが「確証バイアス」(Confrimation bias)(自分がすでにもっている先入観や仮説を肯定するため、自分にとって都合のよい情報ばかりを集める傾向性のこと)となって、「Aさん=嫌な人」という構図ができてしまいます。
そして、一度この「Aさん=嫌な人」という確証バイアスができてしまうと、脳は相手の嫌な点しか見ようとしないため、それが確信となってAさんのイメージが固定化されてしまいます。
相手と自分の思っている言葉の意味は異なる
こうした認知バイアスの働きに気づき、よい人間関係に改善していきたい場合には、少しだけ勇気がいりますが、相手に自分の気もちを正直にちょっとだけ伝えてみることをおすすめします。
第一印象がよくなかった相手に「前回、○○を言われたんだけど、これはどういう意味だったのかな?」と聞いてみます。すると、意外と本人は「失礼な」ことを言ったつもりではなかったかもしれません。
相手の生まれ育った地域では、会話の間にツッコミを入れて盛り上げるのがコミュニケーションとして当たり前だったということもあります。
メールで傷つく言葉を書いてきた相手に、「前回のこの文章は、どういう意味で言っていたのかな?」と聞いてみます。すると、自分が思っていたこととまったく違って驚くことがあります。
たとえば、「あなたは変な人だ」と言われたとき、悪い意味ではなく「変わっている=めずらしくて貴重な人、一般にはいない才能をもった人」という意味で使っているかもしれません。