※本稿は、西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
脳は理由があるとフレーズを受け入れやすい
「黒猫が前を横切ったら、不吉なことが起きる」
「誰かが噂をしていると、くしゃみが出る」
「四つ葉のクローバーを見たら、幸運が訪れる」
「風邪は人にうつすと治る」
実際にはなんの因果関係もない出来事をつなぎ合わせた格言は、日本だけでなく、世界各地に数え切れないほど伝わっています。
なぜ、わたしたちは本来関係のない事柄の結びつきに対して、なんとなく「あるかも……」と感じてしまうのでしょうか。
そこには「前後即因果の誤謬(Post hoc ergo propter hoc)」と呼ばれる認知バイアスがかかわっています(※1)。
これは、「Aが発生したことによって、Bが起きた」と発生した出来事に対して、勝手に因果関係をつくり出す認知バイアスです。
たとえば、自転車で転んでケガをしてしまい、ショックを受けたとします。
これまで自転車で転んだことなんかなかったのに、転んでしまった。どうしてだろう?そういえば、転ぶ前に黒猫が前を横切った。昔から黒猫が前を横切ると、不吉なことが起きるって言うから、それでかな……。
本来、自転車で転んだことと黒猫は無関係です。ところが、2つの出来事を結びつけて納得させようとします。
どうしてこうした認知バイアスがあるかというと、わたしたちの脳はコントロールできない状況に対して恐怖を感じるからです。
なぜ、それが起きたかわからない。どうやって納得すればいいのかわからない。そんな不安定さからくる恐怖を追いやるため、AとBの因果関係を見つけ出して安心しようとするのです。
加えて、本書の「自動性」の解説でも触れたように、わたしたちの脳には理由があるとフレーズを受け入れやすいという性質があります。
世界各地に「黒猫が前を横切ったら、不吉なことが起きる」的な、意味が通じるようで通じない格言やことわざがあるのは、こうした認知バイアスの働きによるものかもしれません。
そして、理不尽なクレームを言う人も「前後即因果の誤謬」の影響を受けているのです。