なぜ根拠のない事柄に、因果関係を求めてしまうのか。脳科学者の西剛志さんは「脳は不安定さからくる恐怖を追いやるため、AとBの因果関係を見つけ出して安心しようとする」という――。

※本稿は、西剛志『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

毛布に包まれて自宅のソファに座って頭痛を持つ病気の女性
写真=iStock.com/ljubaphoto
※写真はイメージです

脳は理由があるとフレーズを受け入れやすい

「黒猫が前を横切ったら、不吉なことが起きる」
「誰かが噂をしていると、くしゃみが出る」
「四つ葉のクローバーを見たら、幸運が訪れる」
「風邪は人にうつすと治る」

実際にはなんの因果関係もない出来事をつなぎ合わせた格言は、日本だけでなく、世界各地に数え切れないほど伝わっています。

なぜ、わたしたちは本来関係のない事柄の結びつきに対して、なんとなく「あるかも……」と感じてしまうのでしょうか。

そこには「前後即因果の誤謬(Post hoc ergo propter hoc)」と呼ばれる認知バイアスがかかわっています(※1)

これは、「Aが発生したことによって、Bが起きた」と発生した出来事に対して、勝手に因果関係をつくり出す認知バイアスです。

たとえば、自転車で転んでケガをしてしまい、ショックを受けたとします。

これまで自転車で転んだことなんかなかったのに、転んでしまった。どうしてだろう?そういえば、転ぶ前に黒猫が前を横切った。昔から黒猫が前を横切ると、不吉なことが起きるって言うから、それでかな……。

本来、自転車で転んだことと黒猫は無関係です。ところが、2つの出来事を結びつけて納得させようとします。

どうしてこうした認知バイアスがあるかというと、わたしたちの脳はコントロールできない状況に対して恐怖を感じるからです。

なぜ、それが起きたかわからない。どうやって納得すればいいのかわからない。そんな不安定さからくる恐怖を追いやるため、AとBの因果関係を見つけ出して安心しようとするのです。

加えて、本書の「自動性」の解説でも触れたように、わたしたちの脳には理由があるとフレーズを受け入れやすいという性質があります。

世界各地に「黒猫が前を横切ったら、不吉なことが起きる」的な、意味が通じるようで通じない格言やことわざがあるのは、こうした認知バイアスの働きによるものかもしれません。

そして、理不尽なクレームを言う人も「前後即因果の誤謬」の影響を受けているのです。