実家が売れない
ところが後日、上地さんは母親から冷や水をかけられる。母親はこう言ったのだ。
「いい気なもんだ。自分だけいいところ取りして寿司なんか頼んで。頼むなら自分で金を払え。金を払うそぶりもしない。」
父親は母親にひと月ごとに生活費を入れているため、その中から寿司代を出せということだったのだろうが、それが母親には気に入らなかったようだ。
「両親はずっと仲が悪いです。しかしそのくせ、2人で依存し合っている関係です。家族が一丸となって希望に向かっていこうとしていたときでさえも、母は毒を吐いてきて、私にそれを受け止めさせるのです。遠回しに、(歯科医と商社マンの共働きでいわゆるパワーカップルの)私たちに寿司代を払えと言っているようにも聞こえます」
気を取り直して上地さんは、ハウスメーカーを決めるため、週末ごとに夫と住宅展示場に通った。
父親が実家を売りに出してから6カ月が経った頃、ようやく買い手がついた。やはり広さはあるが、旗竿地(道路に接している出入り口が細長く、その奥に敷地がある土地のこと)ということがネックになり、最初につけた値段からかなり下げられた。
「あんな土地、誰も欲しがらない。残されただけで迷惑だ。広いだけでどうしようもない。お婆ちゃん(上地さんの母方の祖母)が残してくれた土地は、広さはなかったけど、今回と同じくらいの値段で買い手がついた。もっと早く売れば良かったのに。馬鹿だね、売り方が下手なんだ」
上地さんは多少の違和感がありながらも、この頃はまだ基本的に母親の愚痴や悪態を受け止められていた。
「母は、一つ嫌になると徹底的に嫌がり悪口を言いまくります。父のこと、近所のこと、親戚のこと……。母と私は共依存関係でした。母の考えを自分の考えだと思い、無条件で受け入れてしまっていました」
「土地(実家)が売れて良かったね! これで家が建てられる!」と上地さん夫婦は喜んでいたが、ある日、父親から呼び出される。父親は、2人を前にこう言い渡した。
・固定資産税は上地さん夫婦が全て支払うこと
固定資産税を上地さん夫婦が払うのは、後々、姉と相続の問題が出た際に、固定資産税を支払っているから、土地は上地さんが相続すると言いやすくなると父親が考えたためだった。
3歳上の上地さんの姉はすでに結婚し、夫婦で自宅を購入し、経済的にも安定した暮らしをしていた。それでも相続時にもめることは避けたいと父親は考えたようだ。
やがて二世帯住宅を建てる土地も見つかり、購入する際には、父親が予定通り数千万円(全体の3分の2)を、上地さんが3分の1を負担した。