社内で起きた懐疑的な意見

もっとも、旅行業界には強い逆風が吹き荒れていました。

HISも、苦しいなかで新規事業の可能性を模索。当時、海外事業戦略本部にいた勇川さんは、「北米支店の試みを他にも広げられれば、新たな事業になる」「ぜひやりたい」と考えたそうです。

半面、社内には「オンラインで本当に事足りるの?」と懐疑的な見方をする人もいて、勇川さんは「自分の思いだけでは足りない」「体験者のリアルな声を一つでも多く拾って、各国の支店に伝えなければ」と強く感じた、とのこと。

写真提供=HIS
24時間ライブツアーの様子

支店は国によって時差が大きく、オンライン回線の事前チェックや打合せのタイミングなど、難しい点も多々あった。またツアー当日、電波や回線の不具合が発生する可能性があり、東京本社でも「いざ」というときに備える必要があったといいます。

「当時は、私も含めて関わった数人全員が、他業務との兼務。最初は『なにかが起きたらどうしよう』と、皆が緊張の連続でした」と勇川さん。

そんななか、ツアー体験者の声を拾うと、「旅するようで楽しかった」や「今度(現地の)ガイドの○○さんに会いに行きたい」など、次々と喜びの声が積み上がっていった。

これを聞いた各国の支店が、「うちでもやりたい」と手を挙げ始めたそうです。

「リアル旅行の代替」を超える存在になるには

その結果、21年6月末までには、中南米や欧州、中東、あるいはインド、ベトナムなど、世界14カ国の支店がオンライン体験ツアーを導入。各国の文化や食、ショッピングなどをテーマにした多彩なラインナップが生まれ、体験者は延べ10万人を超えました。

一方で、ここで留まれば、オンラインはリアルの代替でしかなくなる。やがて移動制限が解除されれば「やっぱり旅はリアルだよね」となり、価値が薄れてしまう可能性も否めません。

この段階が、マーケティングでいう「機能的ベネフィット」、すなわち商品やサービスの特徴がもたらす、利用者にとってのプラス効果。一般には便利、早い、安い、簡単など「機能」がもたらす効果(ベネフィット)のことです。