60歳で一律に解雇する定年制は「野蛮な制度」である

高年齢者雇用安定法による定年再雇用の強制で、形式的には65歳までの雇用が保障された。しかし、再雇用の方式は、多くの場合、1年契約を更新する形の有期雇用であり、会社の中で責任あるポストに就けない。賃金も定年前の2割から3割減となったり、ボーナスがなくなったりする場合もある。それを嫌って、仕事能力の高い社員は離職する可能性が大きく、会社にとっても大きな損失となる。

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本来は、会社のトップクラスを目指す一部のワーカホリックな社員を除く、大部分の社員は、40歳代頃からフラットな職務型賃金(※)に移行し、それに見合った仕事能力が維持される限り、自ら希望する時期に引退できる仕組みとなることが望ましい。高年齢者は早く引退して後進にポストを譲るべきという独仏の早期退職政策は、そのためのコストをだれが負担するかを考えなかったため見事に失敗した。

※「職務型」は年齢や在籍年数に関係なく、従事する仕事内容に応じて決められる賃金で、アメリカなど諸外国で広く採用されてきた。もうひとつの「職能型」は年齢や勤続年数、職務遂行能力(人物)の評価をもとに決められる賃金。

日本でも、今後の少子高齢化時代には、高年齢者はその年齢にかかわらず、仕事能力に応じて働き続け、税や社会保険料を負担することで、後代世代の負担を少しでも軽減させることが必要とされる。そのためにも、働き続ける意思と能力を持つ社員を60歳で一律に解雇する定年制という「野蛮な制度」を廃止する必要がある。

ただし、現行の長期雇用や年功賃金の慣行を、単に古い制度として廃止すべきという見方は早計である。企業内で長期的な熟練形成を図る現行の仕組みを尊重した上で、少子高齢化時代に対応した制度への修正が必要とされる。

雇用を含むあらゆる契約には、契約を解消するためのルールも同時に不可欠となる。現行の解雇手当という不十分な金銭補償の制度を、前出の逆U字型の解雇補償金のような形で解雇の際に勤続年数に応じた期待権を一定の条件の下で補償する新しい仕組みに置き換える。こうした改革は、企業だけでなく、多くの労働者、とくに定年制の廃止に結びつけられるなら、高年齢者には大きなメリットがある改革といえる。

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