解雇補償金の水準とは

日本企業では、新卒社員を採用して長期の企業内訓練を通じた熟練形成に重点をおいている。その関係から、中途で退職すれば不利になるように、雇用保障や年功的賃金・多額の退職金などを設けることが一般的な慣行となっている。この「労働者を辞めさせない」ための仕組みが、社員の就業継続についての期待利益を高めるために、それだけ解雇が困難となる大きな要因となっている。

これは職種別にフラットな賃金が一般的な欧州との違いであり、それだけ解雇補償金の水準は高くなる。これは仕事能力の不足する社員に辞めてもらうには、解雇にともなう生涯での「逸失所得の補償」が必要となるためだ。具体的には、現在の企業で働き続ける場合と、再就職した場合との生涯所得の差分である。現在の企業での勤続年数が長いほど、転職により失うものが大きくなるため補償金の水準も高まる。他方、補償される定年までの年数が短くなれば、それだけ低下する。

解雇保証金(月収賃金)
出所=大内・川口(2018)により作成

この考え方を用いて、図表1のような逆U字型の解雇補償金の水準を試算した大内伸哉・川口大司「解雇規制を問い直す(2018)」では、そのピーク時に近い勤続年数20年の男性の逸失所得を完全に補償するためには、大企業では38.6月分(約1700万円)、小企業では17.7月分(約600万円)の賃金が必要とされる。仮に、これ位の金額の補償金を今後出さなければならないとすれば、企業が安易に解雇することの防止にもなろう。

なお、これは補償金の上限であり、仮に労働者側に何らかの責任があれば、その分は調整される。また、企業側にパワハラなどの不当行為があれば、この方式とは別の損害賠償請求の訴訟となる。