汚染がひどいのは輸入ではなく国産だった

では、どのような小麦がDONなどに汚染されているのでしょうか?

なんとなく、輸入小麦の汚染がひどく国産小麦は安全と考えていませんか? ですが、それは思い込みです。むしろ、国産小麦のほうが心配な面があります。

日本では昔、小麦の基準値がなく、厚労省が2002年、海外の流れに沿って暫定的な基準値(1.1mg/kg)を設定しました。そこで農水省が実態調査を行いました。すると、図表2のような結果となったのです。

2002年のDON調査結果

国産小麦の方が、輸入小麦よりもはるかに汚染の程度が高かったのです。国産を推進したい農水省にとっては、あまりにも都合の悪い結果でした。

日本での小麦栽培は秋にタネをまき翌年6〜8月に収穫するのが一般的。生育後期に雨が多く赤かび病が蔓延してDONなどを産生しやすいのです。日本への輸入量の多い北米産小麦は主に、雨の少ない地域で栽培されています。

かび毒汚染を低減させる決め手は農薬使用

汚染の防止、低減には、栽培段階から科学的な対策をとる必要があります。そこで、農研機構などが研究を重ね2008年、「麦類のかび毒汚染低減のための生産工程管理マニュアル」をまとめました。

赤かび病に抵抗性を持つ品種を選ぶ/適切に肥料等を管理し伸びすぎて倒れないようにする(倒れると土壌などにいた赤かびが付きやすく収穫した麦類のDONも増える)/適期に収穫する/収穫後は速やかに乾燥する/被害粒を選別し取り除く……などと共に、もっとも効果的で重要度の高い対策として盛り込まれたのが、化学合成農薬を開花期に散布することでした。

開花が始まった日から10日間に降雨日数が多く最低気温も高いと、赤かび病を発病しやすいのです。かびの増殖が一気に増えるその時期に化学合成農薬でしっかりと抑え込むと、かび毒が減ることが確かめられました。さらに、開花20日後までにもう1回、追加散布するのがDON低減に効果的であることもわかりました。

麦類に赤かび病の病徴はなくてもDONを蓄積していることが多く、見た目で「感染していないようだから、農薬は散布しない」という判断はできないことも判明しました。開花がいつ頃になるか、その年の気象条件によっても異なるので、農研機構は、生産者が播種はしゅ日や気象データを入力すると開花期を予測するサービスも提供しています。

効果的な化学合成農薬も検討され、3剤がマニュアルに記載されました。

これらの赤かび病対策研究は詳細なもので、栽培マニュアルにとどまらず多数の学術論文として発表され、国際的にも高く評価されました。研究成果は、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が設置した「コーデックス委員会」が作成した「穀物中のかび毒汚染の予防と低減のための行動規範」にも引用されています。