「予算がない、前例がない、他でやっていない」は言わない

そして2003年に「近隣の市町村と合併しない」ことを公約として選挙に勝った松岡市郎町長が就任して以来、東川町役場の職員たちは「予算がない、前例がない、他でやっていない」の3つの「ない」を言わないようにしているという。東川町では、最初に「町が取り組みたい事業」というのが明確にあり、その事業に必要な補助金を探し出す。逆に普通の地方自治体では、「国や都道府県の補助金があるから、こういう事業に取組む」ことで、政策が横並びになってしまいがちである。

このように「写真の町」プロジェクトを通じて、東川町役場の職員がビジネスマインドを持つようになり、また外からの人たちの対応にも次第に慣れていったことで、以下に述べるようなスモールビジネスの集積や優れた教育環境を実現し、最終的には移住者が増加することにつながっているのである。

2012年のモンベル誘致がきっかけでスモールビジネスが増加

東川町を訪れると、おしゃれなカフェやセレクトショップ、パン屋、レストランなど約60店舗が、町の中心部だけでなく郊外にも散らばっていることに驚く。こうした点在するおしゃれな店やカフェを巡るのもこの町の楽しみ方だ。東川町でこのように多くのスモールビジネスが集積するきっかけは、2012年4月に町の中心部にある道の駅「道草館」の隣に、登山やアウトドア用品の専門店「モンベル大雪ひがしかわ」が開業したことである。

もともとは東川町の商工会や観光協会が、モンベルを町に誘致していた。そして実際にモンベル出店にあたって、東川町は約1億円をかけて店舗を建設して、商店街活性化の利活用プロポーザルにモンベルが応募したことで実現した。北海道からも補助金約3800万円を受けることができたので、東川町の負担額は約6000万円となった。

モンベルから町に年間賃料と法人事業税が入り、町の雇用増にもつながる。そして何よりもモンベルの存在は、東川町のイメージアップに大きく貢献し、「モンベル大雪ひがしかわ」が開業した頃から、東川町にはアパレルショップやおしゃれカフェ、パン屋や焙煎コーヒーの店、レストランなどが次々と開業していったのである。

そうした多様なスモールビジネスの担い手は、Uターンした若い世代や都会から移住してきた家族である。いずれも規模を大きく商売するよりも、自分たちがやりたいことをなりわいとし、東川町での暮らしと仕事を楽しむ生活をしている人が多いという。