「実は私、以前はavexにいたんです。女性大物アーティストのマネジメントなどをした後、最後は子会社の社長をしていました。15年ほど勤めて退社した2020年のある時、福島県南相馬の実家に子供を連れて帰省する機会がありました。

その時に地元でおいしいと評判の老舗和菓子屋さんで大福を買って帰りました。実家でそれを食べてみると全身に衝撃が走りました。和菓子はそれほど好んで食べるほうではなかったのですが、その時には人生で初めて大福を2個続けてたいらげてしまいました。

この店、おじいちゃんが一人でやっていたけど、この先、店はどうなるのだろうか。この大福がもし東京にあったら、私の住んでいるようなエリアで販売したらどんなに喜ばれるだろうか……。などと想像していたら我慢できなくなって、すぐにその店を訪問して『弟子入りさせてください』と頼みに行きました」(鈴木氏)

「餅はオレの代で終わりだ。弟子は取らねぇ」

その店は宍戸電氣餅店という大正5年創業の老舗和菓子店でした。

当時では珍しかった電動餅つき機で餅をついていたから「電氣餅」という名が付いたのだそうです。特に現店主である3代目の宍戸貞勝さんの作る大福は評判を呼び、最盛期には1日2000個以上販売するほどの人気商品でした。

©︎あいと電氣餅店
福島県南相馬で100年以上続いた老舗和菓子屋 宍戸電氣餅店

鈴木さんが宍戸貞勝さんに弟子入りを頼みに行った当初は、「電氣餅は、オレの代で終わりだ。弟子は取らねぇし、子供にも継がせねぇ」と言われたのだそうです。

それでもあきらめきれなかった鈴木さんは、毎日店に通いつづけました。宍戸さんもその熱意にうたれ、ついに1カ月後、弟子になることを許されました。

修行期間は1年6カ月。その間、伝統の味と製法を寝る間も惜しんで学びました。そして、「もうお前ぇに教えることはね。継ぎたきゃ継げ。好きにしろ」と言われ、晴れて4代目として認められたのです。

宍戸さんからは「店をやるなら好きにしていい。ただ、できれば電氣餅という名前は残してほしい」と要望されていました。はたして2021年11月、東京都渋谷区に「あいと電氣餅店」がオープンします。

ちなみに「あいと」とは、「LOVE&(愛と)」という意味。鈴木さんは「電氣餅LOVEの気持ちをそのまま店名にした」と言います。非常にシンプルな店名ですが、作っている餅の雰囲気を醸し出しているように思います。