餅だけの店を軌道に乗せた5つの戦略

あいと電氣餅店は「餅」が売りの、単品一番店です。「単品一番店」とは、1アイテムだけで商売が成り立ち、他の追随を許さない一番の売り上げをあげる店のこと。したがって、餅だけで店を成り立たせるためには、それ相応の知恵と工夫が必要です。

和菓子屋で餅を扱っている店はありますが、餅の専門店として成り立っている店は珍しいはずです。

あいと電氣餅店はオープンにあたって、以下のような工夫を経営に取り入れた結果、毎日数百個を予約だけで売り切ってしまう繁盛店を作り上げています。

①賞味期限は5時間

一般的な和菓子商品では保存期間を延ばすために糖度を高くしたり、添加物を入れる例もありますが、電氣餅や大福には添加物や保存料を一切使用していません。添加物がない時代からの製法で作ってきた宍戸電氣餅店の製法を忠実に守るためです。それゆえ、糖度は高くないのです。

黙々と手作業で大福をつくるスタッフ
撮影=髙須力
黙々と手作業で大福を作るスタッフ

大福に使うもち米は新潟産(メインは魚沼産)の「こがねもち」を季節や気温にあわせて水分量を変えながら調整し、蒸らしています。それを、宍戸電氣餅店と同じメーカーの電動餅つき機でついていきます。

あんこに使う小豆は、北海道産のエリモショウズ。オリジナルブレンドの砂糖と山口県の窯焚き製法で作られる塩を使い、独特の甘みを引き出しています。

餅や大福の賞味期限は5時間です。この短い期限設定により、店側が感じてほしい餅の味わいを確実にお客に提供できます。

②販売予約はネットのみ

販売は基本的に毎週月曜日10時から1週間分の予約をネットで受け付けます。水曜日から日曜日の営業時間帯の中で、商品と受け取り時間を指定するという仕組みです。

手作りのため、作れる量に限りがあるのと、おいしい餅をロスなく販売しないともったいないという理由で完全予約制にしています。

予約制は数量の見込みが立ちやすいので売り手にとっては、廃棄ロスを防ぐためのもっとも効率的な方法です。

また、鮮度がなによりも重要な餅や大福は、作りたてを早めに食べないと硬くなってしまい味が落ちるため、やはり予約制が向いています。

ネットで予約して、店に商品を取りに行く。これからの店のあり方として他の業種でも参考にできる売り方といえます。

(鈴木さんいわく「店舗周辺の方々が買えないのは申し訳ない」ということで、店頭販売をしている日もあるため、ラッキーな方は飛び込みで購入できる日もあります)

使えるデジタルサービスはすべて使う

③すべてデジタルで宣伝

あいと電氣餅店はオープンにあたってクラウドファンディング(「Makuake」)を活用しています。

555人のサポーターから223万円を集めてプロジェクトを成立させています。

餅の専門店というのは意外にお金がかかります。その割に、それほどのリターンが見込めないことも、餅の専門店が稀少な理由でもあります。

クラファンによって、金額だけでなく、500人を超えるサポーターを獲得できたことは幸運でした。通常、新店のファンはゼロです。しかし、あいと電氣餅店はスタート時から500人以上のファンがいました。そのため当初から順調なスタートを切れました。

また、オープン時からSNSによる販促に力を入れていて、LINEは7600人、インスタは7800人(いずれも9月初旬時点)のフォロワーがいます。

チラシやDMなどの費用がかかるアナログ販促はせずに、お金のかからないデジタル販促を活用するという点もイマドキの店のやり方でしょう。