1970年代までは半数が自宅で死を迎えた
冒頭での事例を実行したNさんは「自宅で看取ることが亡くなるご本人にとっても家族にとっても最も良い」との信念を持っているケアマネジャーです。
「私は祖父、祖母、両親を見送ってきましたが、祖父と父、母は病院で亡くなりました。祖父と母の時は病院から危篤だとの連絡を受けて駆けつけたものの、死に目に会うことができず、ものすごく後悔したんです。それで祖母だけはそんな思いをしなくて済むよう病院から連れ戻し、自宅で2カ月ほど介護をした後、看取りました。おばあちゃんとはその間、いろいろな話ができましたし、納得して見送ることができました」
その思いが今の仕事につながっていると語ります。
「自宅に戻った祖母を見て改めて思ったんですけど、誰もが最期は自宅で迎えたいんです。ただ、そう思っていても“家族が大変だから”などと気兼ねして本音を話せなかったりする。でも、自分がこの世から去るという何事にも代えられない重大事。気兼ねなんかしている場合じゃないですし、家族もその思いに応えなければならないと思うんです」
Nさんは「自宅での看取りは難しい、病院で亡くなるのが当たり前といった思い込みはなくしてほしい」とも語ります。
「2018年の介護保険法改正によって、自宅での看取りができる環境は少しずつですが整ってきています。看取りをフォローする専門職は、それなりの労力や気遣いが必要になりますが、それを考慮した報酬が加算されるようになりました。希望すれば応えてくれるケアマネ、訪問医、訪問看護師などは増えているんです」
では、実際に自宅での看取りを実現するにはどうすればいいのでしょうか。
「話しづらいことかもしれませんが、最期をどう迎えたいかを家族で話し合い、その思いを相互で理解しておくことが大切です。そして自宅での看取りを望む場合はケアマネに伝えてほしい。ケアマネにもさまざまなタイプがいて、担当する人がその思いを受け止めてくれるとは限りませんが、どの地域にも私のような自宅での看取りに積極的なケアマネがいるはずなので、担当を代わってもらえばいいのです。そういう人は自宅での看取りに理解のある病院、訪問医、訪問看護師など専門職のネットワークを持っていて、連携して動けますから」
冒頭の事例も前もって準備をしていたわけではなく、連絡があってから対応したケースだそうです。
昭和の半ば、1951年は8割以上の人が自宅で亡くなっていましたし、1970年代まで、それは半数を超えていました。その後、多くの病院が建設され救急医療の整備が進んだため、自宅死と病院死の比率は逆転した。それに従い、死は日常から切り離され、遠いものになっていきました。そんな現在、自宅で肉親を看取ることは家族にある種の覚悟を強いることでもあります。
「でも、ご本人が望んでいるのなら、それをかなえてあげるのが家族ではないでしょうか。また、私の経験では“自宅で看取ることができて良かった”とみなさんおっしゃいます。実際はそれほど大きな負担ではないのです」
ケアマネをはじめ訪問の医師や看護師など、自宅での看取りに対して前向きに取り組む人は多くなっているといいます。そうした人たちに頼れば、決して難しいことではないのかもしれません。