埼玉県ふじみ野市で起きた訪問診療医射殺事件に震撼したのは医療者だけではない。介護業界も「次は自分たちではないか」と恐れている。事件が起きた同じ埼玉県でケアマネジャーとして働く43歳の男性は「今回逮捕された66歳の容疑者に似た“モンスター”や介護スタッフに暴言や暴行をする問題のある介護家庭を、現在進行形のケース含めたくさん見てきました」。介護の現場をフリーライターの相沢光一さんが取材した――。
散弾銃
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医療・介護業界が震撼…「訪問診療医射殺事件」は氷山の一角

1月下旬、埼玉県ふじみ野市で起きた訪問診療医射殺事件は社会に大きな衝撃を与えた。

猟銃で撃たれて亡くなったのは、事件の前日、無職・渡辺宏容疑者(66)の母親(92)を看取った医師だ。容疑者から弔問に来るようにとの連絡を受けて訪問したところ、「心臓マッサージをして蘇生を試みてくれ」と頼まれた。無理な要求だったため丁重に断ると容疑者は逆上し、医師に向けて猟銃を発射したのだ。

凶弾に倒れた鈴木純一医師(44)は苦労の多い在宅医療を積極的に引き受け、患者に寄り添う仕事ぶりが評判だった。

要介護の高齢者の医療・介護に携わる仕事は「死」が身近にある。どんなに親身になって自らの知見や技術を動員してケアをしたとしても限られた寿命を延ばすことはできない。

それを治療法が悪いなどと勝手に思い込まれ、憎悪を向けられたとしたら……医療者としてはそんな恐ろしいことはないだろう。この事件の報に震撼しんかんしたのは医療関係者だけでない。居宅介護の事業に従事する人たちも同様である。

「今回の事件には私はもちろん、在宅での介護サービスを担当するスタッフは皆、大変なショックを受けています。決してひとごとではない、と」

そう語るのは事件が起きた埼玉県の居宅介護支援事業所に勤務する男性ケアマネジャーOさん(43歳)だ。

「厚生労働省が『介護現場におけるハラスメント』の実態調査をし、対策マニュアルを出しているように、介護スタッフの多くが利用者やその家族などから身体的暴力、暴言や執拗しつようなクレームなどによる精神的苦痛、セクシャルハラスメントなどを受けています」

厚労省による2018年度の調査「ハラスメントを受けた職員の割合」を見ると、サービスの種別による差異はあるものの利用者本人(要介護者)からは4~7割、家族などからは1~3割の職員がなんらかのハラスメントを受けた経験がある。

「介護職員は女性の比率が高いです。私たちケアマネジャーも8対2の割合で女性が多い。ハラスメントの傾向がある利用者や家族を女性が担当するのは危険です。そのため、私のような男性ケアマネが代わりに担当することも多く、問題のある介護家庭は現在進行のケースを含め、ずいぶん見てきています」