「人生の最期をどこで迎えたいか?」。厚労省の調査では約70%の人が「自宅」と答えたが、実際に自宅で亡くなったのは約15%。そんな現状を少しでも変えようという女性ケアマネジャーがいる。フリーランスライターの相沢光一さんがその仕事ぶりを取材した――。
入院中の男性の指先にはパルスオキシメーターがつけられている
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なぜ、日本では自宅で死ぬことができないのか

「ご容態から判断すると、この数日が山かと思われます」

末期がんで入院している老親の主治医から、こんな連絡を受けたとします。たとえ親御さんが自宅に戻ることを望んでいたとしても、この状況ではその実現は困難だと考えるのが普通です。

こうして大半の人が病院で最期を迎えることになりますが、“最後は自宅で過ごしたい”という本人や家族の強い思いをかなえるため、日々奮闘するケアマネジャーがいます。首都圏のある自治体で居宅介護事業所を経営する女性ケアマネ、Nさん(43)です。

「今年3月のことです。Wさん(利用者・80代男性)のご家族から“主治医から知らせがあった”と連絡がきたのは16時ごろ。ご本人はもとよりご家族も自宅での看取りを望まれていたことを覚えていたので、その確認を取ったうえで病院にいつ退院できるかを電話で聞きました。準備や手続きがあるので2日後と言われましたが、それでは間に合わないかもしれないと思ったので、“明日にしてください”とお願いし了解を取りつけました」

Nさんは、その後に予定していた仕事をすべてキャンセル。Wさんの自宅での看取りの準備に全精力を傾けました。

「自宅で介護をされていた方ではなかったので、福祉用具事業所に電話して明朝までに介護用ベッドとエアマットの搬入を頼みました。次いで自宅に着いてからの対応のため訪問医と訪問看護師に連絡し、必要な機材の準備やケアの態勢を取ってもらうようにしました」

退院当日の翌日は朝、介護用ベッドの搬入に立ち合い、いったん事業所に戻って急ぎの仕事を処理。昼過ぎにWさん宅に戻って、家族と今後、どのように対応するか方針説明をするケアカンファレンスを行いました。ほどなくWさんが家族とともに自宅に到着。それに合わせるように訪問診療の医師、追って訪問看護師が来訪しました。

「Wさんは、その翌日の夜、息を引き取られました。ご自宅に帰られてからずっとWさんは眠っておられたようですが、ご家族は“住み慣れた家に戻れてホッとしたように見えた”とおっしゃっていました。また、最後の夜はほんの少しだったけれど、家族や駆けつけた叔母(Wさんの妹)とも言葉を交わすことができた。父が亡くなったのは悲しいですが、良い最期だったと思っています」と感謝されました。

長引くコロナ禍のため病院や施設にいる親の死に目に会うこともかなわない人が多いなか、このような別れの時間を持つことができた家族もいるのです。