国の肝いり制度「成年後見人」の不正がなくならない
この3月に、あるNPOの元理事長が福岡地裁から懲役3年執行猶予5年(求刑懲役3年6カ月)の有罪判決を言い渡された。
森高清一被告(66)は複数の高齢者の成年後見人で、複数の高齢者の口座から約1280万円を着服したとして業務上横領の罪で起訴された。こともあろうに同被告は「NPO法人権利擁護支援センターふくおかネット」という組織の元理事長で、成年後見制度についての勉強会の講師を務め、制度の普及を啓蒙する立場だった。
最高裁判所の調査によると2021(令和3)年の成年後見人による不祥事の被害総額は約5億3000万円(169件)。被害総額が56億7000万円(831件)と最も多かった2014(平成26)年と比較すると減っているが、依然として被害を受ける人は少なくない。
そのため成年後見制度に対してマイナスのイメージを持つ人が増えているようだ。良い制度なら利用者は増えるはずだが、横ばい状態が続いており、「成年後見人をつけて後悔している」という話を聞くことも多い。賢い利用法はあるのか。成年後見人としてのキャリアが長い司法書士に現状の制度の解説・課題を聞いた。
認知症などで判断能力が不十分になった人は、契約行為などができなくなる。例えば、銀行預金の引き出しができなくなり、不動産の売却なども不可能になる。また、将来的に高齢者施設に入所するつもりで、その費用に自宅の売却代金を充てようと考えていたとしても、判断能力低下によりそのプランが実行できず施設の入所契約もできない。本人が思い描いていたライフプランが崩れるだけでなく、家族が介護費用を払う羽目になるなどさまざまな問題が生じるのだ。
そうした事態を補うために制定されたのが、成年後見制度だ。判断能力を失った本人についた成年後見人が前述のような契約行為を代理できる制度で、認知症になった高齢者などの権利と財産を守るという目的で導入された。施行されたのは介護保険制度と同じ2000年。高齢化社会に備え、介護保険とセットで生まれた制度だ。
ところが、介護保険によるサービスの利用者は約600万人いるのに対し、成年後見制度を利用しているのは約21万人にとどまっている。利用率は3%程度にすぎない。