「認知症による資産凍結」を防ぐにはどうしたらいいか

担当する後見人が、そのように問題の多いハズレの人物だったとしても一度選定された成年後見人を代えることはできないといわれる。不満があったとしても我慢するしかないのだろうか。

「成年後見人の解任はできないわけではないんです。『不正な行為』『著しい不行跡』『その他後見の任務に適しない事由』の3つに該当する場合は解任できます。横領などは『不正な行為』に当たるわけです。家族が不満を持っている場合は3つ目の『後見の任務に適しない事由』に該当しそうですよね。ただ、これは後見人が病気になるなどして任務ができない場合であって意向が通るわけではない。家裁という裁判所が下した決定は重いんです。解任を請求したとしても審理に時間がかかりますし、却下されることも少なくありません」

こういう話を聞くと、ますます成年後見人などつけない方がいいと思う人が多いだろう。しかし現実問題、家計を担う一家の主が認知症になると、生活費を使うことができなくなってしまうわけだ。こんな事態に備えてできることはあるのだろうか。

「ベターなのは(前出①の)任意成年後見人を立てておくことです。世帯主ご本人が、将来自分が認知症になることを見越して、『この人になら安心して自分の法律行為を代行してもらえる』と思える人を選定。成年後見人として契約するんです。信頼できる司法書士や弁護士も頼んでもいいし、親族でもいい。自分の子どもとかね。別に法律に詳しくなくても、成年後見人にはなれますから」

とはいえ自分が将来、認知症になることは想像しづらいもの。実際“自分だけは認知症にならない”と思っている高齢者は少なくない。認知症になることを想定して任意の成年後見人をつけるという判断はなかなかできないものだ。

成年後見人をつけなくても、家族が生活費の出し入れや財産管理ができる方法として、「家族信託」という制度もある。委託者(財産を託す人:主に親)と受託者(財産を管理する親族:主に子)が信託契約を結ぶことで、受益者(生活費などを受け取る家族)の意向に沿って受託者が金銭管理をする形態。「認知症による資産凍結」を防ぐ制度だ。

署名をするシニア女性の手元
写真=iStock.com/SetsukoN
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これは家族間の契約であり、家庭裁判所が介在する成年後見制度よりは利用するうえでのハードルは低い。だが、受託者が親族であっても、お金の使い込みをする人がいないわけではないし、受託者を誰にするかで親族間でトラブルが起きることもある。

また、家族信託にしても、任意の成年後見人をつけるのと同様、委託者本人が認知症になることを想定した準備であり、利用する気になりにくいという問題もある。

「結局、一番の問題は家計を握っている一家の主が認知症になると、そのお金が生活費として使えなくなることなんです。家庭の多くは家計をご主人の預金口座で賄う形になっている。それが凍結されて困るわけです。だから、金銭的に余裕のある家庭の場合、奥さんの口座にも一定の暮らしが成り立つだけの金額を確保しておけば大丈夫なわけです」

ともあれ家族のことを考えたら、認知症をひとごとと思わず、備えをしておくことが大事なのだ。

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